※グレイ死ネタ。







駆け付けた時には、もう既に手遅れだった。
鉄分の異様な匂いが鼻を霞める。
血の水溜まりを構うことなく突き進むと、ぐったりとして動かなくなった愛しい人の姿。
頭の中が真っ白になり、慌ててそばに駆け寄ると、顔が真っ青だった。
血の気が引いていき、思わず身震いをする。
血塗れの動かない身体を、ゆっくりと上半身だけ抱き上げる。
はらりと長い前髪が、額をはらった。


「嘘…だ、ろ……」


心なしか、触れている肌が冷たい。
こんなのが人間の温度なのか?
グレイの身体を抱き上げている腕が、かたかたと震えた。
上手く呼吸が出来ない。
あれ、呼吸ってどうやってやるんだっけ。
鼻から吸うんだっけ、それとも口から?
吐くときは、口から?鼻から?
わからない、何もわからない。
呼吸の仕方も、目の前の状況も。


「ぐ、れぃ…」


自分でも情けないほど、声が震えていた。
刹那、ぴくり、と。
ふいに、腕の中にいる重みが微かに揺れたような気がした。
気がしただけ、だったがそれは確かに動いていたことを、すぐに確信できた。


「…な…つ」

「グレイ…ッ!!」


微かだが、確かに聞こえた弱々しい声音に、思わずバッと顔を覗き込めば、うっすらと目を開いたグレイと目が合った。
浅い呼吸を繰り返しながら、目には涙が浮かんでいて。
まるで、息をするのもやっとの状態。
愛しい人が死にかけているのに、何も出来ない。
とても無力な自分に、腹がたった。
何が滅竜魔導士だよ、何が最強チームだよ…っ。
そんなの、結局飾りだけの言葉じゃないか。
好きな奴すら守れない妖精の尻尾なんて、ただのクズじゃないか。
そんなの奴が妖精の尻尾を名乗っていいのか。


「死ぬんじゃ、ねぇぞ…」


無意識に漏れた言葉は、確かに自分の口から発せられたもので。
ああ、また震えてる。情けない。


「……聞ぃ、て…っ」


喉の奥から絞り出されたような、苦しそうな声。
とてもとても小さかったが、オレはしっかりとグレイの声を拾い上げた。


「……っすき、」

「え…?」

「すき、だ…っほんと」

「グレイ…?」


何だよ、何で今そんなこと言うんだよ。
わかってるよ、どうしたんだよ急に。
まるで最後の別れみたいな…。
───、最後の別れ…?


「お、おい…グレイ…?」


同時にぽろ、と目の前の黒真珠から水滴が溢れ落ちた。
頬を伝うその水滴に気をとられていると、きゅっと力なくマフラーを握られた。


「…オレのこと、忘れんなよ…」


──は?
何言ってんだ、こいつ。
わからねぇ、どういう意味だ。
何だそれ、何だよ、それ。


「なん…、」

「…オレ…もう無理っぽいから」


は?は?は?え?何が?何が!
何が何が何が何が何が!


「……愛してる…、なつ」


──とさ、と。
オレのマフラーを握っていたグレイの手が、乾いた音を立てて地面に崩れ落ちた。
一瞬だけ、小さく笑みを浮かべて。


「……え、」


───止まった。
微かに動いていた心臓の音が、急に聞こえなくなった。


「ぁ、あ、嘘だ……っ」


がたがたがたがた、
肩が震えた。
最も恐れていた状況に陥ってしまった。


「…ぅ、嘘だぁあああぁぁああぁあぁぁぁあああああっ!!」


涙腺が完全に崩壊した。


「オレまだ何も言ってねぇよ!何も!何も言ってない!ふざけてんじゃねぇよ!勝手に逝くなんて許さねぇぞ起きろ!ふざけんなぁぁあ!」


喉が痛い。
だけどそれ以上に、心が痛い。
えぐりとられたような胸の痛みに、吐き気がした。


「あ゛ぁあ゛あ゛ああああああっ!」


好き、大好き。ほんとに。
これ以上ないくらい。
愛してる。アイシテル。
──なのにお前は、オレに何一つ言わせてくれなかった。
生きる希望を失った。
もう呼吸もできなくて。




















痛い。喉が、心が

(太陽を失った月の よう だ、)









[ 21/21 ]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -