※ニア、目が見えない設定です。







がちゃり、と部屋のドアが開く音がした。同時にふわりと香る、大好きな人の匂い。
見えなくたってわかる、入ってきたのはメロだ。
自然と顔が綻ぶのが、自分でもわかった。


「来てくれたんですね、メロ」

「よく僕だってわかったな」


そう言われて、ほんの少しだけ嬉しくなる。
くしゃりと頭を撫でられて、何やらひやっとしたものが頬に当てられた。


「?なんです、これ…」

「林檎。食えよ」

「丸ごとですか…」

「僕、包丁使えないんだよ」


それを聞いて、そうですかと仕方なく丸ごとの林檎を受け取ると、そのままかじり付く。
しゃり、という音と共に広がる林檎のほんのりとした甘さ。
美味しい。間を開けることなく、再び二口目をかじり付くと、上でメロがくすくすと笑った。


「…なんですか」

「いやあ、別に?」


そうは言われたものの、未だ喉の奥で笑い続けるメロに、ムッとする。
構わず林檎にかじりついていると、私が座っているベッドにメロがゆっくり腰掛けてきた。


「ニア、手貸して」


そう言われておとなしく片方の手を差し出す。
するとメロは、私の手のひらに指で何かをなぞり出した。
どうやら、アルファベットのようだ。


「わかる?」

「え…N?」

「そうそう。じゃあ次」

「…E、A……?、R…」


私が手のひらに書かれたアルファベットを口ずさむと、メロは全部繋げてと言った。
言われた通り、最初のNと繋ぎ合わせる。

N、E、A、R───ニア。


「私の、名前?」

「当たり!じゃあこれ」

「まだあるんですか」


呆れ気味にそう言いつつも、次々に手のひらに綴られるアルファベットを、私は順番に繋げていった。
それは、だんだん文章になっていく。

そして、


「───はい、終わり」

「I love you…?」

「うん、当たり」

「クサいですね」

「なッ!誰かデスノート持ってこい!」

「冗談ですよ」


きーきー騒いでいるメロをよそに、私は再び林檎にかじりついた。
見えないからわからないけど、今のメロはきっと顔が真っ赤だろう。
思い浮かべると、これがなかなか笑える。
顔に出さないようにして、小さくなってきた林檎に再度かじりついた。


「ニア、もう一度手を貸せ」

「リベンジですか」

「うるさい!黙って手を出せ!」


はいはいと言って、再度手を差し出す。
口で言ってしまえば早いものを。なんて思ったが、メロが自分の口から直接言わない理由なんてわかりきっているから、あえてそんなこと言わない。
また先ほどと同じように、手のひらに綴られたアルファベットを繋げていく。

そして文が出来上がると、メロの手がぴたりと止まった。
文の意味を理解し、私は唖然とした。


「…………メロ、」

「な、なんだよ…!」

「貴方は馬鹿ですか?」

「何でだよ!」


だって、
Marry me(僕と結婚しろ)…なんて。


「ニアの面倒は僕が一生見てやるって意味だ!」

「え…」

「僕がニアの目になる!」


此方に向けられているはずのメロの目は見えないけれど、がっしりと掴まれた肩に、彼の熱い意思を感じる。
胸のあたりが、きゅうっと締め付けられる感覚に陥った。


「それで結婚しろ、と」

「ちなみに否定権はない」

「それなら問題ありません。否定するつもりは毛頭ないので」


そう言うと、メロは満足そうに私の頭を撫でた。
私は彼にこうされるのが、心地よくて好きだ。

幸せを噛み締めるように、私は林檎の最後の一口にかじりついた。




















綴るのは愛の証

(でも、命令形とは感心しませんね)









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