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「お前、それ本気で言ってんのか…?」
せっかくロキに拭ってもらった涙は、更に量を増して次から次へと溢れ出した。
いきなりの出来事に、言葉を失うナツとロキ。
「おれは…っ、お前じゃなきゃ…ダメ、なのに…!ナツは、そうじゃ、ねぇのかよぉ…っ」
「───っ、グレ…!」
「ひ、っぐ、ぅ…ふぇえ…ぇぐっ」
嗚咽を漏らしながら、とうとう本格的に泣き出してしまったグレイ。
ナツは、未だ自分を見てくれている彼を突き放そうとした自分自身を酷く殴りたくなった。
───今のオレに、こいつを抱き締める権利なんかねぇ。
何と声を掛けていいのかわからず、そのままグレイの泣きじゃくる声だけが二人の間に響いている。
「あはは、そっかぁ」
そんな中、最初に口を開いたのはロキだった。
「一途なお姫様だなぁ。ま、そんなとこも好きだけど」
そう言いながら、ぽん、とグレイの頭を撫でたかと思うと、ロキはそのままグレイの肩を軽く押した。
すると、泣いていたグレイはいとも簡単にバランスを崩し、そのままナツの胸へと倒れ込んだ。
「っと…」
それを反射的に受け止めるナツ。
「じゃ、僕はフラれちゃったから。そろそろ星霊界に帰るね」
「え、おま…!」
ナツが止めるより先に、ロキはぽんっと音を立ててその場から消え去った。
「(何か、泣きそうな顔してたような)」
一瞬そんな気がしたが、まさかあいつがこんなことで泣くわけがないと、オレは首を振った。
いろんな女と遊んでるような奴だ。フラれた経験なんて何回もあるだろ。
───でも、あれが見間違いじゃないとしたら?
もし、ロキが本当にグレイのことを好きだったとしたら?
…いや、こんなことを考えていても仕方がない。
胸の中で未だ涙を流すグレイをぎゅうっと力強く抱き締める。
自分のせいでここまで感情的になるグレイが愛しくて。
「バカだよなぁ、オレ」
本当、最悪だ。
「ごめんな…」
そう言って頭を撫でれば、左右に動く首。
目尻が熱くなるのを感じた。
「仲直り、しよっか」
そう呟くと、今度は縦に動く首。
その瞬間、堪えていた涙がぽろりと溢れてしまった。
「ナツまで泣いてらぁ」
顔をあげたグレイが、微笑みながらそう言った。
君じゃなきゃダメだから
(もう手放したりなんかしない)
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