※エドナツグレ
「はー、やっと終わった!」
「そうだねー」
ため息を吐きながら歩く恋人のグレイ。その隣を歩きながらボクは鞄の中の薬草を見つめる。
今日はグレイとルーシィさんとジュビアさんを連れた4人でこれを取りに山に来たんだ。
そのせいですっかりくたびれた様子のグレイを横目に、ボクは先程のことを思い出しながら、少し訊ねてみることにした。
「モンスター倒したときのルーシィさん、いつもながらすごかったね…?」
「ははっ…だな!」
グレイは笑いながら、ボクの頭を暖かそうな手袋をしたままの手でもふもふと叩いた。
「それに比べてボクはダメな奴だよね…。いつもビクビクしてるし、強くないし…」
「ほーら、またそういうこと言うだろ。お前はー」
言いながらグレイはムッとしてボクの頬っぺたをむにっと摘まんだ。
「い、いひゃいよ…ぐえい」
「オレの好きなヤツを悪く言うんじゃねーよ。な?」
「ぐ、ぐ…ぐれ…っ!」
「?」
「グレイぃぃいい…っ!」
目を潤ませ、まるで神様でも拝むかのように両膝をついてグレイの手を握りしめると、彼は苦笑いした。
グレイは、いつでもボクが欲しい言葉をくれる。
「ナツ!帰るぞ。車出せ」
ルーシィさんの声に、ハッと我にかえる。
わかった!と言ってグレイの手を引いて、ボクは自分の愛車に乗り込んだ。
* * *
* * *
ナツに手を引かれ、彼の愛車の後ろの席に乗り込もうとしたときだった。
ナツはゴーグルを着けようとしていた手を止め、顔をしかめてオレに言った。
「おいおい、おめーの席はこっちだろーが」
クイッと顎で助手席を指され、思わず胸がキュンとなる。
やべぇ、やっぱ車内のコイツにはかなわねぇや…。
顔に熱が溜まるのがわかった。
真っ赤になった顔がバレないようにマフラーに目一杯顔を埋めながら助手席に乗る。
その瞬間、ガバッとマフラーを強引に剥ぎ取られた。
犯人は言うまでもなく、ナツだ。
「…っちょ!」
「なーに真っ赤になってんだよ。…かわい」
「か…っわいく、なんか…」
「何でだよ。こんなリンゴみてぇになっ……」
「お前らイチャつくなら後にしろ。さっさと車だしやがれ」
いつの間にか車に乗っていたルーシィとジュビアちゃん。
さ、さっきの見られた…!?
そう思うと恥ずかしくて、顔が蒸発しちまいそうだった。
「ちっ、何だよルーシィ。邪魔すんじゃねーよ」
「てめぇ、車降りたら覚えとけ」
後ろの席からとてつもない殺気を感じる。
で、でも今のはナツが悪いからフォローしてやんねぇ!
「グレイ」
耳元で名前を囁かれ、反射的に身体がぴくりと震える。
「な、なに?」
「帰ったら続きしような」
「〜〜〜っ!?」
確信犯かコイツ!マジで蒸発しちまいそうだ!あぁ、顔が熱い!
「はは、可愛いなぁ。グレ…」
「ナツ!前!」
「うお!?」
いつの間にか、目の前にあった大きな木にぶつかりそうになったところをハンドルを回し、ギリギリのところで何とか避ける。
後ろの二人はシートベルトをしてなかったから、頭でも打ったのだろうか。ゴッ、と鈍い音がした。
「はーあぶねー。安全運転、安全運転」
「ど こ が だ!」
運転中にも関わらず、今にもナツに襲いかかってきそうなルーシィ。
それを止めるジュビア。
その光景を見ていると、思わず笑みがこぼれた。
何でもない日常なのに、これがオレには幸せでたまらなかった。
日常=幸せ
(魔力が尽きても、これだけはどう変わらないで)
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