眠る額に優しく
──妖精の尻尾。
相棒のハッピーを連れて、ナツはリクエストボードとにらめっこ。
様々な依頼書が貼ってある中、ナツは難度よりも報酬のいいものを選ぶ。
「たまにはグレイと二人きりで行きてーよなぁ」
そう呟きながらにやけているナツに、隣にいたハッピーがやれやれといった様子で、肩をすくめた。
「ナツ、仕事行くのか?」
ふいに後ろから聞こえた愛しい声に、ナツは嬉しそうに振り向いた。
小首を傾げてオレを見るグレイは、珍しく服を着ていて。
やべ、すっげぇかわいい。
「おう!グレイも行くだろ?これとかいいぞ、ほら報酬が──」
ぽん、と。
軽く背中を叩いただけなのに。
それだけなのに、グレイの身体は一気にバランスを崩しまい、そのままオレの方へと倒れてきた。
「ぅお…!?」
──ドサッ
慌てて受け止めようと、腕を伸ばしてグレイの身体を抱き寄せたはいいが、そのまま勢い余ってその状態のまま、床に尻餅をついてしまった。
ナツの上に、グレイが倒れている形になる。
みんなの視線が二人に集まった。
「グレイ…!?」
慌てて顔を覗き込めば、顔をほんのり赤らめ、苦しそうに浅い呼吸を繰り返しているグレイが目に入った。
身体が熱い。
まさか、と考えを巡らせでこ同士を引っ付けてみれば、じんわりと熱が伝わった。
やっぱりかと言わんばかりに、ナツは大袈裟なほどに、はぁ…とため息を漏らすと、ほんの少し安心したような笑みを浮かべた。
ぐったりとしたグレイの頭を軽くぺしっと叩き、その身体を軽々と抱え上げ、あまりグレイの身体に衝撃を与えないよう、お姫様抱っこにする。
「ナツ、グレイどうかしたの?」
心配になったのか、ミラジェーンが不安そうな顔をして、オレにそう訊ねてきた。
「あぁ、大丈夫だミラ!タオル濡らしてくんね?グレイの奴熱ある」
熱?と首を傾げるミラジェーンに、にっこり笑って頷いてやると、彼女もまた安心したようにホッと胸を撫で下ろした。
* * *
* * *
あれから、熱のあるグレイを自分の家に連れてかえり、ベッドに寝かせるとオレは一人でグレイを看病することにした。てゆーか看病って、一体何すりゃいいんだ?
「グレイー?」
「ん…」
「しんどい?」
そう聞けば素直にこくりと頷くグレイ。
首を縦に振る、たったそれだけなのに、グレイはとても辛そうな顔をした。
余程きついんだな。
そう思うと胸が痛くなる。
「何かして欲しい事とかあるか?」
「や…」
「何か食う?」
「んーん…」
「…気付かなくてごめんな」
「……そ、な…こと…」
ない、と続けたかったのか、唇は微かに動いたものの声は発せられていなかった。
「今日はずっと一緒にいてやっから」
「ぅ、ん…」
「……」
うとうとし始めたグレイの額に優しく口付け、優しく頭を撫でてやると彼はあっという間に眠りについた。
「さぁて、」
風邪のときは何食わしたらいいんだっけ。
薬はどこにあるんだ?
そんなことをぶつぶつ呟きながら、オレはグレイが起きる前にと急いでギルドに向かった。
眠る額に優しく
(口付けするのを忘れずに)
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