※もし楽園の塔の生け贄が、エルザじゃなくてグレイだったら







──エーテリオンが暴走し始めた。
ジェラールとの苦戦で、力を使い果たしたナツは、気を失って倒れている。
このままだと、オレもナツもまずい。
…どうするべきか。
考えた末オレだけ逃げるわけにもいかず、思い切ってナツを背中におぶると、そのまま出口へと走り出した。

オレは、いつもナツに守られてばかりいた。
守られて、庇われて、ずっとナツの背中を見てきた。
そんなのいやだったし、このままじゃ駄目だと、自分でもちゃんとわかっていた。
守られるだけなんて、ただの足手まといに過ぎないし、第一オレだって魔導士だ。戦える。
…だから、今はオレが何としてもナツを守るんだ。
オレのせいでこんなことになったんだ。
オレが守らなくちゃ、いけないんだ。


「ぅあ…っ、!」


不意に足を踏み外して、前にどさりと倒れてしまった。
慌てて身体を起こし、当たりを見回す。
──と、ふと目に入ったのは、先程オレがジェラールに押され、飲み込まれようになった大きなラクリマ。
未だ意識のないナツをその場に寝かせ、ゆっくり立ち上がって近付く。

ふとジェラールが言っていた言葉を思い出した。
──オレとエーテリオンを融合出来れば、この魔力をオレが操り、暴発を止められるかもしれない。
そして、そっと手を添えてみると、それはオレの手を一気に腕まで飲み込んでいった。
──まだラクリマは、オレを受け入れている。と、なると…。

オレの頭に、みんなを助けることの出来るいい案が浮かんで、思わず口角が弧を描いた。
これでナツも、外にいるみんなも助かる。
これに賭けるしかない。


「んぐ…っ、!」


急がないと時間がない。
ラクリマの中に肩あたりまで身を沈めると、ふいに誰かに腕を捕まれた。
反射的にそちらの方を振り向けば、先程まで気を失っていたナツの姿。
思わず、息を飲んだ。


「グレイ…なにやってんだよ」

「……っなつ、」

「お前、からだ…」


心配そうなナツの表情が、痛々しくてたまらない。
これも全部、オレのせいなのに。


「エーテリオンを止めるには、これしかないんだ…」

「エーテリオンを止める…?」

「まわりを見ろよ。もうすぐこの塔は爆発する。でもオレが、エーテリオンと融合して押さえることが出来れば…っ」

「っ何言ってんだ!馬鹿野郎!そんなことしたらお前が…っ」

「ぐぁあ…っ、!」

「グレイ!」


飲み込まれていくオレの身体を、必死に引っ張ろうとするナツだが、先程の激しい戦いのせいで身体はぼろぼろ。
ナツにも限界というものがあり、上手く力を出せない。
力の入らないナツをいいことに、オレはナツの腕を振り払って思い切り突き飛ばす。
小さく声を上げて、ナツはいとも簡単に、その場に尻餅をついた。


「グレイ…っ?」

「心配すんな、ぜってー止めてやっから」


みるみるラクリマに飲み込まれていくグレイの身体を、ナツは見ていることしか出来なかった。
下半身は完全に飲み込まれた。
グレイは、両腕で目の前の恋人を力一杯抱き締める。


「オレは、妖精の尻尾なしじゃ生きていけない。お前がいない世界はもっと嫌だ…っ」

「グレイ…」


ナツは震える背中に手をまわし、必死に抱き締め返した。
ふいに冷たいものが肩を濡らし、それがグレイの涙だということに気が付くのに、そう時間はかからなかった。


「愛してる…っ、なつ…」

「オレだって…オレだって好きだ!愛してる!」


それを聞くと、満足そうにそっと離れていくグレイの身体。
その頬は涙で濡れていたが、口角は幸せそうに弧を描いていた。


「今までありがとう…っ」

「っ!」


身体が完全にラクリマに飲み込まれ、視界がボヤけた。
それは、もしかしたら涙のせいだったのかもしれない。


「グレイ!出てこい、グレイ!」


叫びながら、ナツは必死にラクリマに拳をぶつける。


「グレイィィーっ!!」


ごめんな、ナツ。
今までオレを守ってくれて、ありがとう。
今度はオレが、お前を──妖精の尻尾の仲間たちを守る番だ。






















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