!兄設定 !ネタバレ
なんでもない休日の出来事だった。 いつも通り何処へ行くでもなく何をするでもなく、だらだらと家のリビングで、つけっぱなしのテレビに映る最近売れ出した芸人のトークをぼんやりと眺めていた。 何気なく視線を移したカレンダーには3日後に赤いペンで丸がつけられている。確かアイツの誕生日だったか。週2のバイトで得られるお金は決して高いものではない。しかしこのご時世、そう簡単に定職に就くこともできない。だからと言ってバイトを増やす気にもならない。家に金を入れることさえしないまま、いまだ実家暮らしである。 我ながら屑であると自覚もしているしなんとかしなくちゃな、とも思う。しかし優秀な弟を持つと苦労するものなのだ。
「なんつって」
まあ、つまりは俺はいい年して職にも就かない。家に金も入れない、糞人間の糞ニートってやつだ。
「?」
プルル、と滅多にならないうちの家電話が鳴る。 現在家にいるのは俺一人。母はパートとして出ているし弟も今日も職務を全うしていることだろう。自慢の弟だ。
「はい、神箸です」
今日は風が強いみたいだ。窓の外で風が高く鳴っている。
「あ、はい。正貴はうちの者ですが」
電話の向こう側の人間は女だった。 神箸正貴。俺の弟。警察官で、働かない俺を嫌っていて、何よりも家族思いの正貴。 そんな彼が、
「死んだ、・・・殺された、?」
至急総合病院へ、と口早に告げる電話口の向こうの女性はそれだけ伝えると無情にも電話を切ってしまった。そんなまさか、と思った。 新手の詐欺だろうか。 だって、アイツが死んだなんて。きっと嘘に決まっている。 今の日本で殺す殺されるなんて物騒な事おこるわけがない。警察だって言ったって、あいつはまだ若くて、口うるさくって、俺の、弟で。
「・・・嘘だ、」
そんなの、うそだ。 3日後は彼の誕生日だ。正貴が生まれた日だ。ああ、そうだすべてたちの悪い冗談に決まっている。 嫌な汗を拭って、そうだそれならば彼の誕生日プレゼントを買ってやらないと、と財布だけを持って、家を後にした。 あいつが帰ってきたら笑い話にしてやればいい。 それから、少し早いけれどとあいつのために買ってやるプレゼントを渡せばいい。きっと嫌な顔をするだろう。そんなことをするくらいなら家に金を入れろと怒鳴られるか。 ならば、真剣に仕事を探してみるのも悪くない。そうだ、俺は変わらなければいけないのだ。 今、ここで。
『あー、なんか次の仕事は屑人間の護送だって。世界に屑なんていらねえんだよ、ああ殺してえ』 街中に流れる、10億円の懸賞金をかけられた男の話を聞こえないふりをして歩みを進めていった。
END
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