「・・・Ms.河津、一体どこの夢の国のお話だい?」
ハハと笑う蓮実聖司に私はつられて笑みをこぼす。 現在時刻夕方の5時ぴったし。カラスがうるさい夕刻だった。
「私、記憶があるんです。すみません。なんか、38回分の人生の記憶が」
消えないでそのまま蓄積されてるみたいなんです。 困ったように眉を寄せてそう言ってみる。 蓮実聖司は信じていなさそうだが、でもどこか警戒しているようだった。
「どうしても私、先生に殺されてしまうんです。何をやっても、何をしても。」
先生と関係を持ったこともあったし、先生の素性をバラしたこともあった。 行方不明になった人たちと常に行動を共にしたこともあったしただのクラスの一人になったことも先生の協力者になったことも、ESSに入ったこともあった。 他にも考え付くほとんどのことはやったと思う。 それでも、どうしても何やっても結局は彼の手によって私は殺されそしてまたこうやって繰り返す。17年間をいちからやり直す。
「もう、いい加減死にたいの私」
長い長い時間は私に諦めを教えた。 すでに100年近く生きたことになるのだろうか。 痛みなんて慣れた。殺されることにも恐怖することはなくなり、蓮実聖司はすでに異端でなくなっていた。
「和季、少し話しようか」
十何回目かに私は話をした帰り道に不慮の事故にあったっけ。 私はふるふると力なく首を横に振る。
「すみません」
少し、視点を変えてみればよいのだ。 どうしたら生きれる? なぜ死なない? ・・・どうしたら、死ねる?
「私、なんとなくわかった気がするんです」 「・・・?」
1回目の私は、なんてことのないただの平凡な女子高生だった。 普通のどこにでもいる、少し幸せなくらいの女子高生。 39回目の私は、違う。
「・・・っと、それじゃあそろそろ下校しますね。失礼します」
「あ・・・おい、和季」
勉強だってたくさんした。いろんな本を読んで、たくさん勉強して私は秀才になった。 小さなころからいろいろなことに興味を示したようにはしゃぎまわって、いろんな武道を習った。 武道だけじゃない、いろんな戦う術を手に入れた。 蓮実聖司に殺される時に備えて。
「なんなんだ。・・・何が、わかったんだ?」
「・・・秘密、ですよ!」
否、蓮実聖司を殺すために。 私が生きてきた38回分の17年間を、今で終わらせるために。
不思議そうに、私を見つめる蓮実聖司の眼の奥が禍々しく嫌な色を放つ。 その姿を少し眺め、クルリと身体の向きを反転させて歩き始めた。
得たものもたくさんあったけれど、代償とばかりに失ったものもたくさんある。 神様は一体何をしたいのか、わからないけど。
「・・・終わらせてやる」
39回目の私は教室へ向かう足を止めて、女子高生らしかぬたくさんの傷ができた手のひらをグ、と固く握った。
END 異端な生徒。わけわかめ
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