「さいってー・・・!」

乾いた音が室内に響き渡り、言葉とともに叩いた手はジンジンと熱を持ちはじめる。
目の前の男は特別驚いたようには見えなくて、ただ今私が叩いた左頬に手を覆い、いって、と呟くだけ。その冷静で、別になんとも思っていないような態度がまた私の癇に障る。こいつは、この男は悪いとも思っていないのか。なんなんだ。一人で勝手に怒っている私がバカみたいじゃん。

「・・・信じられない、」

半裸の彼が面倒そうに視線を逸らす。
彼のすぐ後ろにあるベッドでは顔さえ見たことのない女が裸でベッドにもぐりこみ、顔を青くさせている。
ついさっきのことだった。バイトが終わったのでいつも通り彼、光の家に合い鍵を使って入ったところ、玄関には光の靴と、知らない靴。嫌な胸騒ぎを覚えながら寝室にきて見れば、案の定情事の最中だったってわけ。
さっきまではあんあん甲高い声を上げながら光の名前を呼んでいた女も、必死こいて腰を振っていた光も、寝室の入り口でスーパーのレジ袋を落とした私の姿を確認するなり全てを止めた。
萎えた。一言だけそう言って女の中から自分の物を取り出してパンツを履く光も、その光の姿を私はどうすればいいの、と助けを乞うようにして見上げる女も、ただただ立ちつくす私も、全てが苛立った。
気がつけば光の腕を取って動きを止め、そして彼の頬を叩いていたわけだけど。

「なんなの、誰・・・?」

「高校の同級生」

「・・・いつから、」

「今日が初めて」

「・・・好きなの?」

「いや、別に」

素直に答えていく光に怒る気力がすとんと抜け落ちていく。
これは立派な浮気だ。私と光は付き合っていて、そしてお互いが好き合っている。(はずだ)
それを他の女と身体を繋げるっていうことはどうゆうことなのか、光は理解して行っているのだろうか。彼が彼女の事をスキだと言うのなら、私は何も言わずに出て行く。未練はちょっとあるけれど、完全に気持ちがそっちに移ってしまったのならどうすることもできないし、変に足掻いてもかっこ悪い。だが彼は違うといった。なら私はどうしたらいいのだろうか。光は、私にどうしろといいたいのだろうか。

「・・・、」

服に着替えて、私と光の横を抜けてそそくさと出て行く名前も顔も知らない少女の後姿を光ごしにボウと見つめる。
あの子おっぱい大きかった。身体の線も細かったし、何よりもかわいかった。ああゆう子がタイプなのか。

「どっちから?」

「あっちからっすわ。彼女いてもええ、どうしてもっちゅーから」

どうしても、って言われたら誰にでもそのちんこ貸すんだ。
光を軽蔑と呆れの眼差しで見つめればなんすか、だって。落としたビニール袋を持ち上げてもういいや、と気持ちを切り替える。さっさと帰って酒でも飲もう。

「帰るん?」

「うん」

「泊まってかんの?」

首を傾げながら抱きついて、そして耳元で消化不燃焼なんすわなんて色っぽく囁く光に顔を歪めてやる。そりゃそうでしょう。私のせいで出すもん出せなかったもんね。

「・・・パーじゃなくてグーで殴ればよかった」

軽く胸板を押して身体を離す。
ちなみにこれが、光の初めての浮気ではないのだ。


END