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「うーん、なんかちゃうねんよなあ・・・」

ああでもない、こうでもない、と首を傾げ卓上にセットしたスマホの位置を調整する忍足の背中をぼんやりと眺める。椅子の背もたれにくくりつける様、背中できつく縛られた腕の角度がだいぶ無理がある。その上、二重に巻かれたビニールテープが肉に食い込み脂汗が額に浮かぶ。痛みも然ることながら体勢もきついもので流石甚振り慣れている。それに比べ俺は甚振られ慣れている、というと皮肉ではあるが事実苛め抜かれた身体はこの状況に対して現実逃避するように思考は虚ろである。体の痛みには極力鈍感であれ、と脳が指令しているのだろうか先ほどよりも痛みは少ない。そんな状況で、この先待ち受けている痛みを思うと更に頭に霧がかかるもんだから人体とは都合の良いようにできているものだ。

「まっ、ええか。待たせてすまんな」

堪忍してやー、とまるで待ち合わせに遅れたかのような軽快さでこちらへ近づいてくる忍足に心臓が高鳴る。じわりと頭と背中に嫌な汗が浮かぶ感覚に、ああやはりこの現実からは逃避しきれないのだと妙な覚悟のようなものを覚え、硬く目を瞑った。一層の事、頭でもおかしくしてしまいたい。全て夢の中の出来事のように体も頭も全ての苦痛に鈍くなってしまえと、どれほど願ったことだろうか。

「こっちみいや」

刺すように冷たい声音。
たったその一言でびくりと肩が震える。酷くされたくない。ただそれだけの思いで固く瞑ったはずの瞼は少しずつ開いていく。瞼の隙間から入って来る光り、掠れる視界に映る忍足は口角を上げて綺麗に笑った。

「ぁ、ぐっ」

忍足の右手が力の加減を知らないように強く、俺の首を掴む。掴むというよりも最早握ると表現した方が近いかも知れない。そのでかい手のひらは遠慮する事なく気道を塞ぐ。息が詰まり空気が口から漏れた。

「っか、ぁ」

空気の通り道を塞がれ、潰された喉仏はそのまま喉にダイレクトに食い込む。その独特の感覚は何よりも死を感じさせるものであった。
気道だけではない、重要な血管さえも潰してしまっているために血液の流れは堰き止められて血の流れは滞る。頭に血は溜まり身体は熱を帯びていく。その感覚は正しく、死なのである。

「っ・・・ぁ、」

「あー…かん。…おっわ、すまん!死んでまうな!」

「っか、!はっ、っはぁは」

慌てた様子で手を外す忍足に潰されていた気道、血管、喉仏は解放され俺は生を吹き戻す。肺にいっぱい酸素を取り込み血液の循環を促す。滞った血液と酸素は身体中を駆け巡った。

「っはぁ、はっ、は、」

必死に取り込む酸素。空気が擦り切れ喉が焼けるような痛みと死を間近にしたせいか生理的に流れた涙は口からだらし無く垂れる涎と混じり顎を伝って膝の上へ落ちる。制服に落ちた涙と涎はただ暗い染みを作って消えた。

「ははっ、ぐちゃぐちゃやん」

楽しそうに笑う忍足は頬を伝う涙を親指で拭った。
撫でるような優しい手つきからは、先ほどまでの首を絞める際の指に篭った力なんて想像もつかない。
急激な酸素不足からか燃えるように熱くなる体に、冷んやりとした忍足の手が皮肉にも酷く心地よかった。

「こうやって、首絞めるやん」

忍足はそう静かに話し始めながら、ゆっくりと首に手を回して少しずつ力を込めていく。徐々に塞がっていく気道に顔を顰めて、微かに残る空気の通り道から酸素を取り込もうと必死に浅い呼吸を繰り返す。ひゅーひゅーと空気の擦れる音が喉から鳴るのを忍足は満足げに眺めて笑った。

「ほんで、苦しそうな顔を見ながらちんこをぶっこむねん。したらな、どんだけ気持ちええんやろかって、俺ずうっと考えてんねん」

「ぁ、っ…」

「気持ちええと思わん?俺も、きっとアオも。」

「ぉ、した、っい、…ぅ、るし」

「そんな事考えながら、オナニーすんねん。苦しそうな顔や音を思い出したり想像しながら絶頂すんのや、最高やろ」

潰れた声じゃ何も届かない。微かに開いた気道から空気を必死に取り込み自由の効かない手足をバタつかせて忍足の手から逃れようとするが忍足は俺の声なんて聞こえてないみたいに、恍惚に頬を、口を、顔を緩めて俺の首を絞め続けるのだ。

「アオ。いつか、ぐっちゃぐちゃに犯したるよ」

耳元で囁く言葉に感触と肌が粟立つ。潰された喉は空気が擦り痛みを増す。その痛みに空気は喉で詰まり、静かに笑う忍足を前に生きるための呼吸は浅く荒く繰り返すのみだった。