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硝子細工の夕霧 


「アオちゃん、久しぶり」

ふわり、と後ろから抱きしめられる。
冬の冷たい空気が肌に触れているも、抱きしめられたその部分だけは暖かい。
いったい、誰だろうか。・・・いや、大体見当はつく。
甘たるい声で私の名前を呼んだり、こんな人通りの多い場所で抱きついてくる人なんて限られてくるでしょ?

「も・・・沖田さん?恥ずかしいので離れてくださ、」

「アオちゃん・・・疲れたー、癒して?」

やはり、彼は想像していた人物だったようで。
沖田さんはすぐ耳元でそう囁くと抱きしめる腕に少し力を入れた。
息が詰まるような強い力に眉をしかめ、声を少しだけ漏らす。

「沖田さ・・・くるし・・・から」

「ん?ああ、ごめんね。加減とかわからないから」

アオちゃん、いい子にしてた?
なんて、抱きしめる腕を放し、私の正面に立ちニコリと笑う沖田さんからフイ、と視線をそらした。

「あれ、何か怒ってる?」

ひとつき以上私に何も言わずにどこか遠くへ行ってしまうなんて考えられません。
怒るに決まってるじゃないですか。
そう言って目を伏せる。
沖田さんは珍しく甘えたな事を言う私を見下ろし猫のように目を細め、ふうん、と機嫌をよくさせた。
そう言えば、前にも言っていたっけ。こんな風に露骨な甘え方もたまにはいいよね、って。

「そっか、ごめんねアオちゃん」

「沖田さん・・・」

私の頬を両手で包み込み、無理やり視線を合わせる沖田さんの表情はニヤニヤとやらしく細められ、それでいて格好いい。
ドキドキとまるで恋する乙女のように私は一人胸を高鳴らせた。

「心配させてごめん。・・・ただいま」

チュ、なんて可愛らしい接吻の音に私は目を細め、漸く笑顔を浮かべた。
そして、目の前の大きな彼の胸へと抱きつく。ひとつきぶりの、彼の匂いにそっとむねをなでおろした。

「・・・おかえりなさい、総司さん」

嗚呼、あなたの笑顔が見れてよかった。
乙女心は複雑なようで、単純なの

END