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あのときから


どこか遠くで誰かが俺の名を呼んでいる。
返事をしたいのに、此処にいるって示したいのに・・・俺の身体は動かない。



「アオ、・・・アオ」

そんな、悲しそうに俺の名を呼ばないで。
お願い、泣かないで。


「アオ・・・っ、」

お願い、呼ばないで



あの瞬間から、
(俺の時間は止まったまま)
(お願い、俺を眠らせて)



レッドがチャンピオンになった。
テレビを通してそれを知り、俺は純粋に喜んだ。
幼い頃からの夢だった。
すごいポケモントレーナーになること。それが達成された今、彼の次に目指すものは何なのだろうか。
新しい夢を抱き、きっと彼はまた歩き出すのだろう。

俺を、過去に取り残して。


「もう、やめてくれ」

毎晩、夜が来るたびに聞こえてくるんだ。
俺の名を震える声で呼ぶ、レッドの声が。
ああ、きっと彼は泣いているのだろう。だけど、俺はその涙をぬぐうことも、近くにいってやることもできないのだ。
こんな身体、いらない。
この場所から動けず、自由さえもない体なんて。

「泣くな、呼ぶな・・・レッド」


あれから長い月日が経った。
当時は幼かった近所の子供は今では立派な青年へと成長した。
変わらないのは、マサラのこの空気と風景と、俺の身体だけだ。
成人を向かえ、しかしまだ若いこの身体は本来ならばもう親父と言われるぐらいなのだろう。
しかし、変わらない。何もかもが、あの日から何も進んじゃあいないんだ。

「・・・もう、解放してくれ・・・よ」

もううんざりだ。・・・いい加減、眠らせてくれ。
俺は暗闇に融けるよう、目を閉じた。






「アオ、あそぼ」

「レッド?お前から遊ぼうとか珍しいこともあるんだな」

まあいい、あがれよ。
そう言ってレッドを自宅へと招き入れるなり、
近所の子供であるまだ小さいレッドはギュ、と俺の腰に抱きついてきた。


「?どうし、・・・っ」

「ねえ、アオ」

人って死んだらどうなっちゃうの?
真っ赤な大きな瞳が俺を貫く。
なんだ、この痛みは。
ジクジクと腹が痛み、何かが俺の中から抜け落ちていくような感覚に俺は目を見ひらく。
まだ何も知らないようなレッドの瞳を見つめ俺は苦痛に眉をしかめた。

「レッド・・・おま、え・・・何を、」

「僕がアオをしなせたら、アオは僕だけに見えるようになるの」

なるわけ、ないだろ?
ガクンと膝から力が抜け落ち、すぐに近くにある机に寄りかかった。
レッドは未だに俺を見つめたまま腰から手を離そうとしない。
レッドの密着しているところは、なぜだか赤く染まっていた。

「レッド、いい子だから、誰か、呼んできてくれ、」

味わったことのない激痛に息が荒くなる。
うまく、呼吸ができない。頭に霞がかかるように何も考えられなくなるのは血が巡りまわっていないからだろうか。
俺は、死ぬのだろうか。

レッドはそんな俺の様子をボウと見つめるとふるふると首を横に振った。
なんで、こぼれる様に俺の口から言葉が落ちる。
レッドは口を開こうとしなかった。

「レ、・・・ド」

なんで、どうしてだよ。
今までいっぱい、たくさん遊んでやっただろ?
お前とグリーンのことを弟みたいに可愛がって。
毎日のように遊びに来るお前らを口先ではイヤだといいながらも、本当に・・・可愛がって。
可愛くて、この小さな子供を守りたいと思って。

「なん・・・で、」

ポロリと何かが瞳から落ちる。
レッドが何か呟いたけれど、俺は聞き取ることができず、意識は暗い闇の中へ落ちていった。


「アオは、僕だけに見えてればいいんだよ」
無邪気に、言う子供。

その後にまつものは、ただの後悔


END


(ああ、レッド)
(気がついているんだろ?)
(俺はもう帰ってこないんだ。)

((気がついてくれよ))