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独り善がりの愛



「今までありがとう」

下半身がゾクリとした。
俺は・・・何に欲情、してるんだろう。

俺に背を向けて歩き出してしまう男に、自然と口角が上がっていくのを感じた。


君の涙声を聞いてしまったから



いつだって。
いつだって俺はアオが好きで、大好きで。
同じ男なんて気にならなかった。手をつなぐと一瞬固まって顔を赤く染めるアオ。
抱きつくと首元からいい匂いのするアオ。
キスをすればもっと、とねだるように舌を絡ませてくるアオ。
俺は、そんなアオを愛しく思い、そして愛していたのだ。


「・・・グリーン」

かすれたアオの、俺の呼ぶ声に俺は最高に興奮した。
縋り付くように俺の服を掴み、震える身体を必死に隠そうと俯くアオがイトオシイ。

「あの、さ」

「ん?どうした」

わかっているけれど、答えてなんて優しいことしない。
ビクビクと肩を震わせるアオの首に腕を回す。
こうすれば、ほら。大げさなほどに反応するんだ。

「い、・・・や。やっぱ、なんでもない」

「あ、そう。」

言いたいんだろ?
問い詰めたいんだろ?
俺のことを追い詰めて問い詰めて愛を再確認してぐちゃぐちゃに犯してもらいたいんだろ、なあアオ?
俺が浮気したか、問いかけたいんだろ。

「なあ、アオ。愛してるぜ」

耳元で囁く愛の言葉。
きっと、今のお前には傷に塩を塗るようなものなのだろうけれど。
けれどな、アオ。俺はその、擦れて弱弱しくて俺にだけに弱さを見せるお前の姿が大好きなんだ愛してるんだよ。

「ぁ・・・う、ん・・・。俺、もだ」

自分の言いたいことを全て飲み込んで、身体を震わす君は、最高に可愛いよアオ。
俺はチュ、とリップ音を立ててアオの髪の毛にキスを落とした。


「俺にはお前だけだ、アオ」


アオという一個人を此処まで深く愛することになるとは思いもしなかった。
俺はいつだって世界の隅に1人でうずくまっていて、そして誰もが触れることの出来ない檻に自分を閉じ込めていた。はずだった。
気がつけば頂点にいた幼馴染。原点は同じだったはずなのに、いつから、どこから俺は間違えてしまったのだろうか。
一度手にしたチャンピオンの座も一日も立たずに奪われ、そして放棄していった幼馴染が、俺はにくくて、にくくて。
そして、羨ましかったんだ。
アイツは、全てをもっていった。
チャンピオンの座も、世間の目も、じいちゃんの希望も。

「お前だけだ、アオ」

いつからか、俺の隣にいたアオ。
あの、幼馴染じゃなくて俺を見てくれた。
それだけで、俺が落ちるのには十分だった。
それから来る日も来る日も俺はアオを欲した。
アオの身体も、アオの気持ちも、アオの全てを、俺は欲したんだ。


「なんで」

カタカタと肩を震わす君に俺はせせら笑う。
なんで?じゃあ問い返すけど、なんでなんでなんて聞いてくるんだ?
お前は、俺がこんな人間って知らなかったのか?気がついてなかった?俺が薄汚れてズタズタのボロボロの雑巾みたいな人間って・・・知らなかった、といいたいのか?

「離せよ・・・離せよ!!」

ああ、残念。
悲しみじゃなくて、怒りで肩を震えさせてたのか。
―でも、それでもいいじゃないか。お前の愛を受けられて、俺は嬉しい。

「俺のこと、嫌いになった?」

腕に閉じ込めた君はビクリと身体を震わす。
信じられないものを見つめるように首だけ振り返るアオに俺は、さも心配そうな表情を作ってみせる。
実際のところ全然、心配なんかじゃないけどな。
だって、俺がこんなにも深くお前を愛してるんだ。なら、お前だって、俺を深くもっと、もっと深く愛してるんだろ?

「っ、てめえが・・・てめえが浮気なんか繰り返したんだろ!!」

俺が嫌いなら、そういえばいい。
すぐにでも別れてやったっつうの。
そう怒鳴り散らして俺の腕の中から逃げようとするアオをきつくきつく抱きしめた。
浮気なんて、そう対していいものでもない。
断然アオの方がいい。けれど、俺が浮気を繰り返すことでお前が俺に曲がった愛をぶつけてきてくれるのなら。
―それも悪くねえよなあ。

「泣くなアオ」

「泣いてなんか、ない」

掠れるアオの声に俺は恍惚に顔を染める。
これだ、俺が求めているものはこれなんだ。
可愛い可愛い、愛してる。俺だけに見せるその弱みが大好きだ。
それが、お前が俺を特別だと思っている証拠だから。その弱みを餌にする俺はきっと最低なのだろう。
けれど、可愛い。落ちてしまった穴からは、抜け出せない。

「好きだ・・・アオ」

一生、な。ヒクリと喉を鳴らすアオに深い深い口付けをする。


―俺はお前の愛を手に入れられて、嬉しいよ。
1人囁くセリフは、決してお前に届くことのない狂詩曲


END

お題提供:DOGOD69様
涙→君の涙声を聞いてしまったから