OVER
!姉弟設定
!病み気味
クラスの石井君と一緒に学校で勉強をしていたら思ってたよりも捗って時間を忘れてしまった。
気が付いた時にはすでに5時半前で、石井君に謝って急いで帰路に就いたのはつい先ほどのことだった。
乱れた呼吸を正すように一つ大きく深呼吸をして、鞄を持ち直す。
光の自転車はある。お母さんとお父さんはいつも通りまだ帰ってきていない。緊張で汗ばんできた手を強く握って家の扉の鍵を回した。
「・・・おかえりアオ。遅かったやん、どこ行ってたん?今日バイトない日やろ?買い物?一人でいったん?」
玄関の扉を開けたすぐそこには光がいた。
いそいで携帯の時計を確認するも、時間はまだ6時前。ホ、と息をついて慌てて繕うように笑う。
「ただいま、今日学校で補習があっただけだよ。ごめんね、心配かけちゃって」
ほら、夕飯の準備しよ。
そう言いながら光の横を通り抜けようとして、つかまってしまった。
強くつかまれた手首はギシギシ骨が悲鳴を上げている。痛みに顔を顰め、記憶に残る幼稚園時代からとても大きく成長した光を請うように見上げた。
「ひ、ひかる、いた・・・」
「俺、教えてあげたやん。それやのに補習ひっかかったん?」
「あ、いや・・・自主参加で、」
「なんで?俺がいるやん。わかんないところあったら俺に聞けや」
すごい怖い顔をして、力を緩めずに私を見つめる光に足がすくむ。
一個下だけれど、はるかに光の方が頭がいいし、学校も光の方が進んでいるから光は私がつまずくところは全てわかっている。
だから、勉強には逃げられない。なんて、わかってたのに。墓穴を掘ってしまったようだ。
恐怖の前で頭をフル回転させて、この状況から逃れる方法を必死に探す。
「ごっ、ごめん・・・、ひ、光に迷惑かけたくなかったからっ、」
「・・・」
「ほ、ほら、大会近いって言ってたしっ、そっちに集中してほしかったのっ」
震える声で出てくるセリフは心にないことばかり。
それでも気が付かない光はようやく緩んできた腕の力に私は気が付かれないようホ、っと息を吐き出した。
「余計な事、考えんなや」
「・・・ごめんなさい」
「もうええ、」
俯く私を、上からきつく抱きしめる光に肩を跳ねさせる。
力加減がわからないのか、わかっててわざとやってるのかわからないけれど、いつだって光は痛かった。
きつくて、重くて、逃げられなくて。
「光・・・」
「アオ」
掠れた、熱っぽい光の声に目をギュっと瞑って、この彼の姉弟の関係を越えた異様な愛がすべて夢だったらいいのに、とありもしないことを考えて笑った。
END