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「#エロ」のBL小説を読む
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片道切符を手渡して


「んー、んー」

フラフラと夜の街中をおぼつかない足取りで歩いていく。
喉からは酒やけからかカスカスの鼻声。隣で私に歩調を合わせながら腕を取る男は言うほど酔っていないようすでどこか困ったように眉をハの字に寄せていた。

「大丈夫かよ、呑みすぎだろ」
「だいじょぶーだいじょうぶ」

同じサークル仲間であり同期である彼とは確か帰る方向が同じだったか。比較的酒に弱い私と強い彼は飲み会の後、度々こうして共に帰っているのだが。

「・・・おいおい、終電終わったぞ」
「えっ、まじ、どうする?」
「どうするって・・・」
「もう一軒いっちゃう?」

やだなあ明日はお休みじゃないか飲み放題だねえ、と一人浮足立つ私を置いてピタリと足をその場で止めた友人にん?と首をかしげる。
彼は顔を上げて遠い先を見つめるようにしてどこかを見ていた。何だろうかと彼の視線をたどっていけば、そこにあったのはピンクのネオンで輝く建物で。まあ、いわゆるホテルっちゅーやつです。
はあ?とつい口から洩れた言葉は熱く、初夏の夜の闇に溶けて消えていった。


「ホテルとか、ご冗談・・・」
「眠い」

ほら行くぞ、と半ば強引に強く腕を引く友人に徐々に酔いがさめていく。
え、やだやだ。と足を踏ん張るも所詮男と女。しかも酔ってるか否かの差は激しい。
どうか冗談で終わってくれ。そんな私の願いは虚しくも神様に届きはしなかったようで彼は一切私の言う言葉に耳を傾けてくれやしない。
うっすらと目に涙を浮かべながら彼の良心に訴えかけようと試みてもだめだ。もう彼の言うとおり覚悟を決めるしかないのだろうか。でも、いやだ。絶対、


「やっだっ・・・」
「何やってん?彼女嫌がってるやんか」

無理やりはあかんわ。
どこか親しみやすい方言が横から割り込むようにして入ってきたことに目を見開く。
友人の腕をつかみながら彼を睨みつける男。柔らかい色の髪はどこかで見覚えがあって。あれ、と頭をグルリと回転させる。
・・・あれ?

「・・・っち」

男のつかむ腕を振り払い友人は、私を一瞥してから背を向けて歩いて行ってしまった。
徐々に夜の闇にまぎれていく友人の後姿をぼんやりと見つめて、ああ。なんてマンガみたいな展開なの。こっそりと思考をめぐらせた。


「大丈夫?つかまれたところいたない?」
「あ・・・ありがと、ございま・・・?」

ミルクティー色の髪。外はねの髪型に整った顔立ち。あれ、と一瞬体を止めて。

「白石くん?」



◇◆◇


「ごめんね、付き合わせちゃって」
「いや、気にせんでええって」

固めのソファーに腰掛けて息を吐き出す。
終電を逃してしまったのは本当だったようで帰るに帰れないことに軽く絶望を覚えた私に近くのカラオケでも行こうかと言ってくれた白石くん。
せっかくやし付き合う。そう言って一緒について来てくれた白石くんの顔を今更ながらまじまじと見つめる。
うん。かっこいい。じゃなくて、


「あの、ありがとうね。白石くんが割って入ってくれなかった今頃ホテルの中だった」
「気にせんでええよ。けどなあ、しっかりせんとあかんよ?男はみんな野獣やから」

油断大敵やで。そう真剣な顔をして言う白石くんに少し笑いながらそだね、と相槌を打つ。

「それじゃあ白石くんもだ」
「おっ言うやんか。せやでー俺も野獣や!食べちゃうで!」
「白石くんなら大歓迎だよ、食べられたい」

冗談交じりにそう言うと白石くんは飲んでいたコーラをのどに詰まらせたようで咽た。
げほげほと辛そうに涙を浮かべながら咳を溢す白石くんに悪いとは思ったものの声を出して笑う。
白石くんとは高校時代の同級生で、3年生の時同じクラスだった。まあたまに話す程度のクラスメイト。イケメンで有名だった彼は3年経った今も年を重ねて、イケメンに磨きがかかったのではないだろうか。
運ばれて来た水に口をつけながらそういえば好きだったなあ、なんて昔のことをぼんやりと思い出す。まさか高校時代好きだった男の子に3年経った今助けられるとは。
冷たい水が喉を通り胃に落ち着く。火照った身体に気持ちよかった。


「アオは、変わらんなあ」
「白石くんも。変わらないね」
「・・・おん。自分でもわかってるわ」

少しの間をあけて苦笑するように笑う白石くん。そういえば何を考えているのだろうか、よくわからないところが好きだったな。
熱っぽい視線が絡みあう。
高校時代の淡い恋心が、今一度芽吹く予感がした。


END