ぐりぐり
「アオ、わかんねー教えて」
ガタガタとイスを引きずりながら寄ってきたツンツン頭のクラスメイトにヒクリと顔を引きつらせる。
彼の名前はグリーン。高校生活中、なぜかずっと同じクラスと言う、なんともいえない運命の糸で結ばれている俺たちだが、さして仲がいいわけではなかった。
それでも此処最近―つっても、まだ始まったばかりの2学期。夏休みがあけた次の日からやけに慣れ慣れしくなったこの男に俺は若干の不信感を抱いていた。
ていうか、もう。
「ごめん、俺もわかんねーから他あたってくれ」
誤魔化すように視線を逸らし次の授業を確認する。
グリーンは手に持った、先ほどの授業で配られた数学のプリントをひらひらさせるとなんだよ、と小さく呟いた。
なんだよとぼやきたいのは俺の方だって言うのに。
グリーンの表情を伺いもせず、俺は一人手元にある次の教科のテキストをにらみつけた。
「何でそんなに機嫌わりいんだよ?何か俺やった?」
「・・・」
何かやった、ねえ。
教室内の少し離れたところで2人で楽しそうにしゃべる生徒を見つめ眉間にしわを寄せる。
2学期が始まる前までは、俺もあそこにいたはずなのに。3人で楽しくしゃべっていたはずなのに。
全てがうまくいかない。
以前まではうまくやっていたクラスでの関係さえも、悪化。
今日だって見に覚えのない事で呼び出された。わけのわからない噂が回り、クラスの皆が俺を避ける。
呼び出された先で殴られた腹が重く痛み出して机に頬杖をついた。
「っ、い゛」
「何気アオ腹筋あんじゃん」
喉の奥で笑いながら俺の腹へ腕を回すグリーンはグ、と腕に力を込めた。
鈍い痛みが傷口に走り顔を歪める。
変な声が口から漏れるも、咄嗟に腰に巻きつく腕を剥がそうとグリーンの腕に自身の手を置き、掴んだ。
「?どうしたんだよ」
「は、離れ・・・」
「なんで?別にいいじゃねえかよ」
的確に、痣の出来ている部分を刺激してくる腕にグ、と力む。
こいつ、知っててやっているのか。
「い、痛いから、グリ、」
「なあ、誰にやられた?」
まるで、氷点下。
低く突き刺すように鋭い声にゾワリと背中に嫌な汗を流した。
一体、なんだって言うんだ。こんな男知らない。こんな冷たい温度知らない。
グリーンは、クラスの中心でいつでも笑ってて、女子にモテて、そしてイケメンで。
俺なんかとは縁なんてないような奴なのに。
なんで、付きまとう。俺にはお前なんかよりも、
「なあ、アオ。答えろよ」
「グリー、ン」
サワリと優しく撫でられた腹が、なぜだか疼く。
遠くで、以前までの友が笑った。
END