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君の涙声のせい


「なんで」

電話ごしに聞こえてくる声に眉を寄せた。
機械を通しているからか・・・否、これは違う。
かすれた友人の声にお前、なんで。と作業を止めて呟いた。

「泣きそうな声してんの、」
『・・・何言ってんだよ』

ばっかじゃねえの、そう言って口で笑う友人に、俺は椅子を引いて立ち上がった。



(君の泣き出しそうな声に誘われた)


「なんでお前、来たわけ」
「どっかの阿呆が泣いてたから」

時間はすでに9時を回っているだろう。
太陽はとっくに沈み、まん丸の月が薄暗い明りで照らしだす。
ブランコと滑り台しかない小さな公園で一人グズグズ鼻水を垂らしているときだった。
どこからか現れた友人の姿にぎょ、っと目を見開き、急いで鼻水をすする。なんで、来たよ。てか、なんで此処がわかったわけ。
つい先ほどまで電話をしていたはずの友人―佐伯は肩で息をしながら俺の腰掛けるブランコの前まで近寄ってきた。
よかった、この公園に電灯がなくて。
辺りは暗いせいでなんとなく人物が確認できるくらいで細かい表情までは見えない。後は聴力に頼るのみなわけだから下手に鼻水もすすれない。本当なんで来たんだよこいつ。

「別に泣いてねえから」
「嘘つけ、鼻声じゃん」
「鼻炎なんだよ」
「目も赤い」

返す言葉もなくて黙っていると呆れたように息を吐き出す音が聞こえる。
すっかり闇に慣れた俺の目は難なく佐伯をとらえるが、きっと佐伯にはまだしっかりとは俺の姿を捉えられていないだろう。俺はあーあ、と声を漏らして空を見上げた。闇色の空には星が幾つか光っていた。

「別に、泣いてないから」
「・・・ああ、そう」

目に涙の膜が張る。
本当、本当にコイツはこうゆう時ばっかり卑怯だ。
一人になろうと思ってわざわざ外へ出てきたっていうのに、コイツはいとも簡単に俺を探し出して、心のどこかで感じていた孤独をかき消す。
本当、やりにくい存在。

「・・・何で来たんだよ、馬鹿じゃね」

吐き捨てるように出した言葉はカスカスで、余計に自分が身窄らしく感じてしまい唇を噛んだ。
佐伯は黙ってそっと腕を伸ばして、恐ろしいほど優しく俺の頭をなでた。

「やめろよ・・・」

小波美奈子に告白をした。
ずっと好きだったアイツに今日ようやく告白をしたのだ。
この有様の通り返事はNO。彼女は最後まで俺に優しくそして可愛かった。こんな子に恋することができて良かったと俺は力なく笑ったのはまだ新しい記憶だ。
そして彼女は置き土産よ、とばかりに衝撃的なセリフをおいて行ったのだ。

『私ね、佐伯くんが好きなの』

そんなことは、わかっていた。
佐伯を見つめて、物憂げにこぼれるため息。
一緒に帰ろう、と頬をピンクに染めて誘う姿。
気が付けばいつだって彼女の視線は佐伯がすべて独り占めしていたのだ。
彼女をいつも見ていたから、気が付いた切ない事実。
そして。

「アオ、」
「いいから。・・・もう、帰れよ」

気が付いてしまったもう一つの事実に俺はそっと目を伏せる。
熱の籠った視線。
異常なほどに優しい手。
何よりも、周りとの態度や扱いの差。
俺は佐伯の手を振りはらい、もうわけわかんねえ。と涙を流した。

END