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キモいよ!白石くん


「・・・な、なあ、なあ。さ、触ってええ?」

まるで運動後のように呼吸を乱してはあはあと肩で息をするクラスメイトに背筋が凍る。心なしかピンクに染まった頬も、なんでか盛り上がった股間部分も、視界に入れたくなくてふい、と視線をそらす。なんだ、いったい、何が。

「あ、あかん?あかんかった?」
「は、あ・・・?」
「え、ええ?少しだけでええねんて、本当少し、あかん?」

切なげに寄せられた眉に言葉をなくす。俺は知っている。同じ男だから、ってか見ればわかる。この男、興奮してんだろ。

「あ、お、俺のことわかる?覚えてる?」
「・・・、白石だろ、?」
「っ、・・・」

ありえないくらいに吃りながら少しずつ近づいてくる男、白石蔵ノ介に顔が引きつる。クラスメイトである白石はこんな奴ではなかった気がする。
クラスでも中心的な存在の白石は性格よし。ルックスよし。勉強運動よし。さらにしゃべれるといった完璧な男だったはずだ。言わずもがな、女子にはたいそう好かれていたさ。女子だけでなく男だって、みんな口をそろえて言う。彼はいいやつだと。
少し変わったところもあったけれど、やはり彼は完璧なのだ。そんな彼と、俺となんて深い関係なんてない。少し話す程度の仲で特別仲が良かったわけでもないし。クラスだって今年初めて同じクラスになった。席も廊下側と窓際の端と端だし部活もテニス部とサッカー部なんてなんの繋がりもない。
今だってそうだ。
放課後の教室、静まり返った校内には生徒はほぼ帰宅しただろう。今日は特別長引いてしまった練習。いつもと違ったのは終わる時間と、教室に明日提出の宿題をおいてきてしまったということ。
しかたなく取りに来るついでに、誰もいない教室で大胆に着替えているときに、たまたま部活が終わったのであろう、制服姿の白石が入ってきただけのこと。
タイミングが悪いのか、上半身裸のまま現在進行形で靴下を脱いでいたところに、白石は入ってきた。別に男同士だし何も恥じることはないものの、教室へ足を踏み入れて、そして着替え中の俺と目があった白石はそれはそれはびっくりしたように目を見開いた。
そして、冒頭にいたるわけである。
そう、つまりあれだ。俺にも全く状況を把握できていないってわけです。


「あ、んな、・・・触らせて、ほし・・・いんやけど、」

何を、なんて聞く勇気俺にはない。
さりげなく自分の股間部分を守るように隠しながら曖昧にああ、とかうん、とかつぶやく。そうすれば白石はまるで純粋な子供のような笑みを浮かべ笑った。
ていうかコイツマジで今日おかしくないか。
同じクラスメイトで、ましてや有名すぎるほどに目立つ白石のことを忘れるとか。いちいち聞くことじゃないだろ。そんなに俺と白石は遠い存在だっただろうか。・・・まあ、遠いっちゃ遠いのだけど、でも普通に話すくらいの仲だったし。
なんか、どこかのエロゲーみたいな流れに気が付いてげえ、と息を吐きだす。そうだ、今までスルーしてたけど、なんでコイツちんこおっ立ててんの。
て、か、。


「、っ、し、・・・、」

今俺が脱いだばかりのユニフォームをつかみ、鼻を埋める白石に体が固まり声が出なくなる。コイツ、何、して・・・。

「・・・」
「ちょ、・・・、」

スー、と目をつぶりながらにおいを嗅ぐ白石に血の気が失せていく。よくみたらこいつすげえまつ毛長いけど、今はそれどころじゃない。やばい、

「や、めろよ、白石っ!」

彼の腕から無理やりユニフォームを引きはがす。
この季節と激しい運動のせいで、汗でびちょびちょに濡れたユニフォームが冷たい。驚いたように目を丸めて俺を見つめる白石になんでお前がそんな顔するわけ。俺の方が驚いてるんだけど、と声には出さないものの眉間にしわを寄せながら見つめ返す。
ふざけんな、こいつ俺のことからかってんのかよ。

「触る、って言ってたじゃねえかよ・・・、何嗅いでんの」

だけど口から出てきたのは、本当に俺の言いたいことではなくて。
何、言ってんだ俺。混乱した頭をガシガシかく。夜の冷たい空気が何を纏わない上半身を撫ぜ、ぶるりと身体が震えた。

「とにかく、お前もう帰れよ。熱でもあんじゃねえの?お前、今日おかしいよ」
「おかしないわ」
「おい、白石、」

先ほどまで驚くほどにコロコロと変わっていた白石の表情が一気に消えてなくなる。
酷く冷めた目をして、まるで俺を見下ろすような視線に身体が動かない。なんとなく、思いついたのは蛇に睨まれた蛙だかなんかで。おれ、かえる。

「いつも、いつもいつも考えてたん」

視線を外すことなくただ淡々と続ける白石から俺も視線を外せない。
変な嫌な汗が背中を伝う。ああ、やばい風邪ひくかな。

「いつも頭ン中では佐藤にいろんなことをして、そして佐藤だって俺にしてくれてん」
「ちょっと、・・・おい、白石、・・・」
「でも、それは俺のただの妄想って知ってんねんから、」

ぞわりと毛穴が開き毛が逆立つ。鳥肌。
何コイツ、あの完全無欠の白石はもしかしてまさかのゲイだったわけ?
え、何それこわ。

「やっぱ、お前おかしいって・・・」

すでにもう取り繕うような笑みさえも浮かべることができない。
なんたってショッキング。俺はケツに手を当てながらお前は絶対守ってやるから、と心の中で決意する。
白石の目から視線をそらさずにそろそろと上半身裸のまま荷物を抱え、後ずさりをした。

「ちゃうって」
「何が、ちが・・・」
「お前に会うた時から俺、おかしなってんねん」

さっきまでの無表情に、唐突に困ったように眉を寄せながら甘い笑みを浮かべる白石に顎が外れるかと思った。
あぶな、俺が女だったら惚れていそうな笑みだ。女だったら狙われることもないから悲恋だな残念残念。

気が付けば俺は教室から、白石から逃げるように上裸のまま走り出していた。
後日風邪を引いたのは言うまでもない。


END