The next is your turn
「佐藤ちゃん佐藤ちゃん」
木曜日、放課後だった。
教室の窓から差し込む、落ちかけの西日が眩しく、目を細める安藤翼に俺は頬杖をつきながらんー、とやる気のない声を漏らす。
俺が母校に新米教師として舞い戻ってきたのはまだ3ヶ月前のことであった。
うまく社会において、魔法とも呼ばれるようなこの力を使いこなせるのであれば、俺はもしかしたら警察官にでもなりたかったのかもしれない。
高等部を出た後の学園の外は、キラキラ輝いていた。ようやく、自由だと。しかし俺は臆病だった。
「なーんで帰って来ちゃったのかねー」
「そりゃーあれだ。学園に残してきたかわいいかわいい後輩たちが心配だったから」
「ははっ、嘘くせえ」
「うるせーガキ」
「臆病もんだな、アオ」
なにを知ったように。いたずらに笑う翼が目元の星をなぞった。
俺がいない間に出来ていた翼の新しいチャームポイントは俺の心臓をつく。あながち逃げ帰ってきたのも間違いなんかじゃないのではないかとも思うのだ。
そうやって俺はいつだって正当な理由をつけたがる。
「4年も経つとやっぱ皆変わるもんだな」
「俺が初等部で、アオは特力代表だもんな。今じゃ教師かよ」
「問題ばっか起こすなよちび」
「さすがに今ちびはねえだろ」
4年前を思い出してからからと笑う。
きっとあの頃は、こんな風にまた笑いあう時が来るだなんて思いもしなかっただろう。
平和なこの時間を守っていきたい。来年も再来年も、その先もずっとなにも変わらずに平穏な毎日を。ただそれだけでいい。傷つかなければいい。俺が、守っていきたいんだ。
『せんせ、・・・行平先生っ』
『泣くな、男だろ。今は俺が守ってやるから』
だから、次はお前が皆を守るんだ。
消えた温もりはもう戻らない。遠い昔の記憶がふと頭の中を掠め、そっと苦笑をもらした。