日常の切り取り
「兵長、いらっしゃいますか?」
「・・・アオか」
リヴァイへ届けてきて、そう言われ先ほどハンジさんに手渡された書類を手に持って訪れた先。
リヴァイ班の面子が揃った室内に足を踏み入れて、見慣れた顔にどうもどうもと笑う。
私はリヴァイ班ではなくハンジさんの下についているが時々ハンジさんに頼まれてリヴァイさんに会いに来る。そのせいもあってかすでに彼らとはお馴染みの仲である。
おっ、来たなと声をかけられ笑っていると同期でもあるペトラと目があって、わー!と手を振った。元気そうでなによりだ。こうゆう仕事をしていると友達の元気な姿を見れることがとても幸せに思えてくるものだ。
「おい。」
「っ、あ!す、すみません」
少し、はしゃぎすぎてしまったようだ。
不機嫌そうに睨まれて冷や汗をかく。
もともと目つきが悪いのに、さらに怖い顔されてはたまったものではない。早急に用事を済ましてしまおう。
一枚きりの用紙を、ハンジさんからの言伝と一緒にリヴァイさんへ手渡した。
「壁外調査の予定か・・・」
「はい。近々大規模な壁外調査を実行するみたいですね」
「まあいい。確かに受け取った」
「はい。よろしくおねがいし・・・」
ます。
続けようとした言葉は口の中で消えていく。
唐突にふさがれた唇。イスに座ったままのリヴァイさんに首根っこをつかまれて引き寄せられているせいで、態勢的にもツラいし、そもそも首根っこが痛い。
満足そうに離れていくリヴァイさんにようやく状況を把握して、顔を赤く染めた。
「っ、へ、兵長!!」
「ハンジに了承したと伝えておけ」
何事もなかったかのように視線を外して、さっさと出て行けと言わんばかりに出口の方を見つめるリヴァイさんに言葉を失くす。
な、なんなのこの人は一体!
すでに呆れの交じった班員からの視線を一直線に浴びながらわなわなと体を震わすが、リヴァイさんと目が合う様子はない。
「っ、失礼しました」
言い返すこともできずに、赤い顔のまま俯く。
逃げるようにして部屋を後にした。
◇◆◇
「見せつけたいんですか兵長」
いい加減余所でやってくれ、とため息を吐き出す班の面子にリヴァイはやけに上機嫌に鼻から息を吐き出した。
ダッシュで出て行ってしまったアオの後姿を眺めるリヴァイの表情は柔らかだ。
用事があるたびにリヴァイの彼女でもあるアオを使ってくるハンジ。リヴァイとハンジが手を組んでいるのかどうなのかは定かではないが、仕事中なのにもかかわらずキスをするのはいい加減やめてほしいものだ。
始めは微笑ましいような、コチラが恥ずかしいようなで二人が班員の目の前でキスをするのを温かく見守っていたがそろそろ我慢の限界なのだ。
「兵長、本当にアオが大好きなんですね」
「バカ、聞こえるだろ!!」
小声で騒ぐ班員たちを横目で見てリヴァイはそうだ。とイスから立ち上がった。
「全員手が空いているようだ。掃除でもするか」
リヴァイの普段よりも柔らか味のある声音でされた提案に、班員は苦笑いを溢す。
風がふわりとリヴァイ班の頬を撫ぜた。
END