馬鹿みたいに、君を想う。
いつだって現実は残酷だった。
馬鹿みたいにいつも笑ってて殺しても死ななそうな図太い人間があれほどたやすく食べられていくのを俺は何も考えずにぼんやりと眺めていた。
もう、5年も前になる話だった。
「まだ未練あるんだ?」
馬鹿を言え。
無の空間に背を向けて苛立ちげに机を指で叩く。この幻聴も今に始まった事ではない。
あいつが死んでから毎晩囁く。
あいつと同じ声で、あいつと同じようにのらりくらりと馬鹿みたいな喋り方で。
「そんなに俺のこと好きだったんなら言ってくれれば良かったのに」
「うるせえ。消えろ」
あーあ、困った困った。
呆れたようにため息を吐き出す音が聞こえてきて、暫くすると気配はすっかり消え去った。
しつこく話しかけてくる幻聴は、痺れを切らして俺が何か言い返すと満足したかのように消えていく。毎晩、これの繰り返しだった。
俺はおかしいのかもしれない。頭が狂っているのかもしれない。
毎日夜を迎えるたびにこの異常が、普通のことのように思えてくる。
もしかしたらまだあいつは生きているのかもしれないって。
5年前からずっと変わらずに俺の隣を馬鹿みたいにふざけながら歩いているのかもしれないと。
「…は」
そうだ。何を言っているんだ俺は。
俺の目の前で頭を食われたあいつが生きているわけが無いのに、何を考えているのか。
ぼんやりと窓の外から見える月を見上げる。
わかってるさ。
俺は、あいつが…アオが死んでから狂った。今も、狂っているんだ、
「…馬鹿め。」
幼なじみの馬鹿みたいな笑顔や馬鹿みたいな喋り方はあの頃から一切色褪せず。
今でもアオは俺のとなりで馬鹿みたいに笑っていた。
end