「大丈夫、成るように成るのよ」
先日、双子に告白された。しかも二人揃って、同じ日にだ。片っぽだけならまだ信じていたかもしれないが、二人同じ日に告白なんて、双子にしたってそんなことありえる?同じ人を好きになって同じ日に告白するなんて、まさか、信じられるはずがない。しかもそれが他の…そう、例えばアンジェリーナとかに対してだったらまだわかる。けれどこの私に、今までそんな態度一つも表してこなかった二人が、だ。素直にそうだったの、と信じられる方が少しおかしいと思う。
それは双子に返事をしようとしている今でも変わらない、正直に言おう。私は二人を疑っている。
その日の朝はとても寒かった。談話室の暖炉の前で朝ごはんの時間になっても動けないまま一人ぼーっとしてる時、不意打ちで告白してきたフレッドにはマジで?と驚きすぎてとりあえず保留にさせてもらったが、その日の夜ジョージに呼び出された時には全ていつもの彼らの悪巧みなんだと悟り、引っかかるところだったよと笑い飛ばした。がしかしどうやら彼ら曰く、それは違うらしい。
少なくとも俺は本気だよ、と静かに言うジョージの真剣な眼差しが、この到底信じがたい事態に対してまさかそんな事ある?と頭を混乱させたのだ。その後念のためにフレッドにも確認したが同じようなお返事をいただいた。全くどこまでが本気でどこまでが冗談なのかわかったもんじゃない。
二人の言うことを素直に信じられないのは双子の普段の素行に問題があるせいであって、もしこの告白が本気だとしても未だ信じられない私に非はない。もしこれでどっちかを振りどっちかにオッケーをしたところで目の前で俺の負けだーとかやられたら私は正気を保てないかもしれない、それくらい彼らには、言ってしまえば信用がなかった、全くもって日頃の行いが悪いせいである。
私は考えた。正直双子の事は好きだ。それは多分だけど、友情的な意味で。彼らはいい趣味をしていると思うし何より二人がいてくれるお陰でわたしの毎日はとても楽しい。きっと彼らがいなければ私の学園生活なんてたかが知れていただろう、けれど二人が非日常とスリルをいつもくれる。私は彼らに感謝をしていた。
もし二人に彼女が出来たら、それはとても寂しく思うが仕方ない事だと割り切るだろう、彼らの人生は彼らのものだ、私がとやかく言える立場ではない。…でも、やっぱり二人の悪戯の話を聞けなくなってしまうのは嫌だなあ。
「「…ん?どういうこと??」」
「うん…」
談話室でクッキーを頬張りながらわけがわからないと言うようにはてなを飛ばす二人に深刻な顔をしてみせる。フレッドもジョージもお互い顔を見合わせて何が何だか、というような顔をしている。同じ顔が同じ表情で見つめ合う姿は本当に鏡のようだ、見ていてとても面白い。
ソファに座る二人の前に立ち、私ね。と話を続ける。
「色々考えたの。これが二人の悪巧みだった場合とか、本気だった場合の返事による今後の影響とか」
「だから本気だって!」
「からかおうってなら俺たちはもっと上手くやるよ!」
「わかったわかった、犯人はみんなそう言うのよ」
違うって!と声を揃えて抗議する双子につい声を出して笑う。もし本気だったなら申し訳ない事をしているけれど、私は彼らの気まぐれによって傷つきたくないのだ。
次第にお前が日にちをずらせば、だとか、弟ならば兄に譲れだとか目の前で揉め始めたので慌てて二人を引き離して話を続ける。
「私は二人を多分だけど友達として好き」
「なんだよ多分って」
「おいおい、しっかりしてくれよ」
「でもおかしいと気がついたのよね、友達のことを多分、友達として好きって、なんか変じゃない?それで、私もしかして友達としてじゃなくて恋愛的に好きなんじゃ?と思い始めて」
突如話の方向性が変わったことに目を丸め、生唾を飲む2人に背を向ける。
「そうしたら、止まんなくて」
「止まらないって…」
「もしかして…」
「多分、好き。恋愛的に」
まじで!ふぉーー!とソファで盛り上がる二人を振り返って笑う。ちなみにここは談話室だ、他の生徒たちは流石に近くに来たりソファに座ったりはしないものの私たちをチラチラと伺ってくるし、なんとなく先ほどよりもギャラリーが増えた気がする、雰囲気も何もあったもんじゃない。それでもフレッドもジョージも、私もそんな事はあまり気にしていなかった。
「それで」
「一体」
「「どっちを?」」
ソファから立ち上がる二人に挟まれる。まるで追い立てられるようなその行動に慌てて、二人の合間を縫って空いたソファに腰を落として座る。暖炉を背に私の目の前に立つ赤毛の双子は爛々と瞳を輝かせて私の答えをじっと待っていた。
「……っちも、」
「え?」
「なんて、」
「どっちも!」
選ぶことなんて出来ないよ!続けてそう半分叫ぶみたいにして言うと二人は度肝を抜かれたような顔をしてその場に立ち尽くして、少しすると二人して腹を抱えて笑い始めた。もはや爆笑である。まさかこれが告白の返事をしている現場だとは誰も思うまい。
目尻に涙を浮かべ、腹が痛いと笑い転げる二人を波が収まるまで黙って待つ事約5分、結構長かったがようやく落ち着いた二人に、改めてどう?と訊ねた。
「わがままかな、それならどっちも無しっていう方向でも…」
「何をおっしゃるか、姫」
「そうですぞ、姫」
「「姫にその覚悟があるのならば」」
姫はやめてほしいなぁ。床に跪き私の両手を取る二人に笑う。双子の告白が、本気だったとしても、彼らの悪巧みだったとしてももう何でもいいや。私のこの返答は彼らも気に入ったみたいだし、結果オーライってやつじゃないかな。
二人は私の手の甲に唇を落とす。そうしてフレッドもジョージも本物の王子様のように微笑んだ。
そうして私と、赤毛の双子は恋仲になったのだった。全くもってとんでもないお話である。
とんでもない選択をしてしまったという事に阿呆な私が気がつくのはそう遠くない未来の話。
おわり
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