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kiss friens

唐突だけれど私の話を少しだけ聞いてください。
友達、と言っても世の中には本当にいろいろな友達のかたちがあると思う。男女の友情は成立するか、なんて実に使い古された話題だとは思うがこれはは私にとってとても興味深い議題内容なのである。
最近なんて特に友達と言い張る男女間の距離が狭まってきているように思える。
まずセックスフレンド。これはもうだめ、フレンドとはいいつつもやることやってるんじゃ友達なんて言えないのではないかと私は思うのです。ただ彼氏と友達という枠組みだけで見るのならば彼氏以外の男はみんな友達という主張は実に開き直ってて良いなと思いました。
セフレがありなら新種である添い寝フレンドというものも認めざるを得ないよね。添い寝するだけなんて、もはややってしまえと。なんだかセフレというものが逆に潔く感じる。
ソフレってなんなの?性欲を満たすものがセフレならばソフレはなんですか、癒しですか?猫カフェにでも行ってください。
まあ、猫カフェの話はいいんです。私が言いたいのは、次。セフレ、ソフレときて、キスフレンド。正直世間では聞いたことがなくってこっそり何度か調べたことある。
セックスもしない、一緒に添い寝もしない、普通の友達と違うのはキスをするってだけ。
それがまだディープな方なら性欲が少しだけでも見えるから納得いく。ならば、触れるだけのキスは?ノリでも挨拶でもなんでもない、優しいキス。


「・・・」

「ん、」

軽く触れるだけのキスを残して目の前の男は鼻と鼻が触れ合う距離で瞳を見つめ、にこりと笑った。漏れる吐息が鼻にかかりくすぐったい。肩に添えられた手は暖かく冬の冷たさを溶かす。そのまま離れていく蔵ノ介の顔を見つめながら、ああ恋人同士ならばこのまま自然に手をつなぐことができるのにな、とぼんやり思い耽った。

「ここ最近随分冷えるようなったなあ」

風がつめたいねん。何に文句を垂らすかと思えば、風。阿呆らしくって少し笑う。アルコールのせいで火照った頬に冷たい風が心地よい。
この時期になっても未だ就職先が決まらない私の愚痴を聞いてくれる蔵ノ介には感謝ばかりだ。今月に入って既に2度目になる私の愚痴会であったが蔵ノ介は文句ひとつ垂れず聞いてくれて、的確なアドバイスをくれる。さすが、早々に大手の製薬会社に就職を決めた方は違う。
6年制の薬学部のためサークルの同期である彼とは既に6年の仲になるだろう。数えてしまうと恐ろしいものだ。小さなサークルだったために一人一人が仲が良かったのだが、入学当初随分イケメンと騒がれた‘あの’白石蔵ノ介とも今こうやって二人で飲みに行くくらいには大分仲がいい。そんな彼と私は、はじめは普通の友人であったはず。いつからだっけ、所謂キスフレというものになってしまったのは。当時の自分に言ってやりたいものだ、そんなものに逃げずに真正面からぶつからなければ後でつらい思いをするのは自分だぞ、と。

「なあに難しい顔しとるん」

「・・・いやあ?」

「ほら、言うてみ?」

そう優しく笑う蔵ノ介の頬はほんのりと赤い。今日は二人とも少し飲みすぎてしまったようだ。つい言ってしまいたくなる。この関係を終わらせたいと、そしてできることならば恋人同士になりたいと。伝えてしまったら、どちらにしても今の関係は終わってしまうのだ。そんなこと怖くてできるはずがないのに、それでも解放されたいと願ってしまうのだ。今のこの関係から、何年も抱えてきたくだらない悩みから、私は逃げ出したいのだ。

「あのですね蔵ノ介さん、」

「はい、なんですかアオさん?」

じいっと私の言葉を待つ蔵ノ介に胸が熱くなる。ああ、このまま伝えてしまえ。思いのまま、私の考えていること感じている思いをすべてぶちまけてしまえ。好きで、好きで、ずっと前から貴方のことばかりで、それでも友達という関係を壊したくなくて、好きな人とキスできるなんてこれ以上ない幸せだと思っていて、でもやっぱり辛くって。
早くなる鼓動にパクパクと口を開閉する。伝えなくちゃ、溢れんばかりの言葉たちに焦る気持ち。ふと冷たい風が私と蔵の間を吹き抜けた。
もし今私の思いを伝えてしまったらどうなるの?一瞬にして覚める酔いと気持ちに開いた口をゆっくりと閉じていく。
先ほどまで喉まで出掛かっていた、あんなに溢れるばかりの言葉たちはすっかり何処かへ消え去ってしまっていた。


「・・・なんでもない」

そんな私の返事に目をパチクリさせて、どこか残念そうに笑う蔵。
帰ろうか、口の中で呟いた言葉は夜の闇に消えて行く。頬を撫ぜる風は、先ほどまでは心地よかったのに今では冷たく身体を冷やす。
やはり意気地なしの私には、私たちにはもう戻ることも進むことも選ぶ事なんて出来なさそうだった。

END



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