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■ 挑発的に利用して

半端者だとか、負け犬だとか、何を言われても嫌なものは嫌、無理なものは無理なのだ。

辛くも楽しかった大学生活を終えてめでたく東京に就職した高瀬は、その一年後、再び大阪の地を踏んでいた。
たまの帰省、などではなく、東京での生活を捨てて生まれ育った故郷へと帰ってきた。正しくは逃げ帰ってきた。
慣れない土地での不安と、仕事に対するプレッシャー、周りには頼れる友人も家族も居らず、どれだけ疲れて帰ってもどれだけ上司に詰られても、一人で耐えるしかない生活は高瀬の精神を追い込んだ。生活とプライドと健康を天秤にかけ、生活はまた新しい職を探せばどうとでもなる、己のちっぽけなプライドでこれからの人生を棒に振るわけにはいかないと、意を決して苦労してもぎ取った会社の内定をものの一年で手放すことにした。すると驚く程に身も心も軽くなり、今までの苦悩は何だったのかと不思議に思ってしまうほどあっさりと精神状態は安定した。ただ一つ不安は、家族に何の相談もせず、勝手に辞めて勝手に大阪に帰ってきてしまっている現状だ。
退職した連絡はおろか、大阪に帰っているということすら知らせていない実家に、笑顔で転がり込むなんて出来るのだろうか。胃がキリキリと痛む。
日も落ちてしまって辺りは薄暗く、仕事帰りだろうスーツ姿の男性がチラホラ視界に入ってくる。実家に帰るにせよホテルやネットカフェに泊まるにせよ、まずはこの緊張で渇いた唇を湿らせたかった。
暗い道端に存在を主張しているコンビニの明かりに引き寄せられて、自動ドアが左右に開き中からは店員の明るいかけ声。とりあえず飲み物を、とペットボトル飲料が立ち並ぶ冷蔵ケースの前まで足を運んで何にするか悩んでいる高瀬の隣から、まるで幽霊でも見たかのような驚きに満ちた声が聞こえた。

「は……、?青…?」

名前を呼ばれて反射的に横を向けば、中高と同じ学校だった、見知った顔がそこにはあった。

「うわー!白石!?」

高瀬が東京へ越してからも連絡を取り合っていた数少ない友人の内の一人である。

「こんなとこで奇遇だな、仕事帰り?」

「お、おぉ…仕事帰りやけど…、青はいつこっちに帰ってきとったん…?」

「さっき!東京の仕事辞めちゃった」

馬鹿にされるのが嫌で周りに合わせようと努力した高瀬の標準語は、どこかまだ大阪の訛りが残っている。

「せやったんか…」

「親にも何も言ってないからさ、帰りづらくてこんな時間になっちまったよ」

「でもそのおかげで会えたやん」

「あー…うん、確かに」

コンビニで偶然にも再会出来たことに対し、白石は至極嬉しそうに顔を綻ばせる。
そういえば昔から俺の事好きだったなこいつ、と高瀬は学生時代を思い返した。白石の態度から表情から、高瀬に対する全ての言動が他のクラスメイトに対するそれとは一線を画していた。その明らかな恋心は決して高瀬に伝えられはしなかったが、白石の身体中から『好き』の気持ちが溢れているのは高瀬自身も気付いていた。それでも距離を置かなかったのは、とても居心地の良い距離感で接してくれる白石の優しさに触れたからだった。男同士で気持ち悪いとか下心ある奴と遊べないとか、そういった邪念など微塵も感じさせない程の真摯さが白石にはあった。
今も変わらぬ気持ちを抱いているのだろうか。

「…白石さぁ、俺の事、飼ってみる気ない?」

大人になった高瀬は、あの頃の純粋な気持ちは今やもう持ち合わせていない。友人を貶めるつもりは一切無いが、白石の反応を見たいがためのちょっとした出来心と、あわよくば養ってもらえたらラッキーという下心からの台詞だった。

「か、…え?かう?」

「そう、ペットみたいに猫可愛がりしてよ」

我ながら頭がぶっ飛んでるな、と思いながら、白石もまさか首を縦に振るわけはないだろうと冗談交じりに笑って手を丸めて顔の横に持ってくる、所謂猫のポーズをしてみせた。

「ええよ」

「なーんて、冗談だよ冗談…って、え?」

「ええよ。飼ったるわ」

「いや、いやいやいや。白石?自分が何言ってるかわかってる?いや俺が言えたことじゃないけど」

「わかっとるよ。飼ってほしいんやろ?行くところもないんやろ?どうせ一人暮らしやし、うちに来や」

確かに、あわよくばとは思っていた。今もラッキーと思っている。しかしこうもすんなり白石が快諾するとは露ほども思わず、何と返せばいいのか魚のように口をパクパクして言葉は出てこない。

「そうと決まればまずはご飯やな。今日は豪華に猫缶にするか?」

「なっ、猫缶なんか食べれるか!」

「はは、冗談や冗談」

牙を剥いて威嚇する高瀬の頭をポンポンと軽く叩いて高笑いする。

「…なぁ、本当に飼うの?」

「何や、言い出しっぺが怖気付いたんか?」

「ちゃうわドアホ!……あ」

「お。ツッコミはやっぱ関西弁やないとな」

「うるせ」

高瀬の傷みを理解しているかの如く優しく向けられる瞳にいたたまれず、悪態をついてそっぽを向いてしまう。
まんま猫やなぁ、と揶揄うように言ってくる隣の男の足を踏んで、その手に持っていた買い物カゴの中に大好きな炭酸飲料をぶち込んだ。

「飼い主なら俺の好きなもの買ってくれるよな?あと、俺の荷物、近くの宅急便センターに留めてあるからそれも明日取ってきて」

「明日も仕事やねんけど…」

「帰りにでも行けるだろ」

「とんでもないワガママ猫拾ったもんや」

肩を竦めて眉を下げる白石を尻目に意気揚々とレジへと進んでいく。
胃の痛みはいつの間にか消え去っていた。










白石の家で生活、もとい飼われ始めて一ヶ月が経った。
はじめの頃は働きにも出ずただ他人の家で一日中引きこもっている現実に、罪悪感で押し潰されそうになっていたがその度に「俺に飼われてるんやから、そんなん気にせんと好きに過ごしてて」と優しく頭を撫でられて、最近では罪悪感はほとんどなくなっている。惚れた弱みは凄いなと、悪びれもなく感心してしまっている程だ。パソコンで遊ぶのも外に散歩しに行くのも寝るのもご飯を食べるのも自由。正に猫。猫万歳。数十分だけ昼寝をしようとソファで寝て起きてみれば、部屋の中は真っ暗になっていた。電気をつけて時計に目をやると時刻は19時前。寝過ぎてボーッとする頭を振って無理矢理覚醒させていると、玄関の鍵が回る音が耳に入る。

「ただいま」

「おかえりー」

リビングの扉を開けて入ってきた白石は、下を向いてため息をつき、ソファに座っている高瀬に一直線に向かっていく。
またか、身構えた時には白石の腕の中。

「お疲れ様、またいじめられたの?」

どうやら最近異動してきた上司が、白石に目の敵の如く嫌味を吐いてくるようで気が滅入っているようだ。ここ数日は帰ってくる度に抱き締められている。白石曰く、極上の癒し、らしい。仕事が出来る上にこれだけ顔も良かったら妬まれても仕方ないよな、とは口には出せず、労りの気持ちで背中をさするのはもう慣れたことだ。

「はぁ〜〜…俺の癒し…」

「癒されてるとこ悪いんだけど、今日ご飯作ってない、ごめん」

「ええよ気にせんで。出前でも取ろ」

と言いながらも白石が高瀬から離れる気配はない。白石が満足いくまでこの状態が続くのはこの数日でよく理解したので、高瀬は白石をそのままに、弁当の出前を頼むべくテーブルに置いてあった携帯に手を伸ばした。


出前が届いたことを報せるインターホンが鳴っても白石は一向に離れようとはしなかった。無理やり引き剥がそうとすると、却って強い力で抱き締められて身体の骨が悲鳴をあげたため、諦めの境地でその状態のまま出前を受け取る他なかった。
配達員に怪訝な目を向けられようとも、身体が二人から逃げるように引いていようとも、仕方がない。もうここの店で出前は頼めないな、と心の中でため息をついて受け取った弁当をリビングに運ぶ。勿論白石を引きずりながら。

「なぁ。ご飯食べようよ」

流石にこの状態でご飯は食べられない。白石も仕事でエネルギーを使って腹は減っているだろう。タイミング良く白石のお腹から元気な虫の音が聞こえた。

「ほら、腹減ってんじゃん」

その音に笑いながら、肩口に顔を埋めているせいで丸出しの後頭部を叩いて顔を上げさせる。気恥ずかしそうにはにかんで漸く離れていった。


空腹が満たされるとどうしてこんなにも睡魔が襲ってくるのだろう。先程寝て起きたばかりとは思えない睡眠欲だ。
風呂に入るのもめんどくさいと不精なことを考えていると、その考えを咎めるように白石が口を開いた。

「青、一緒に風呂入ろや」

「えー、めんどくさ…い、一緒に?」

「めんどくさいとちゃう、入るで」

「ちょちょちょ、ちょっと待て、入る。入るから。一人で」

「そんなこと言うて、俺が入っとる間に寝るやろ。飼っとるペットを風呂に入れるんも飼い主の仕事や」

「わかった、じゃあ先に入るから!白石は待ってて?」

「嫌や、俺は今すぐ風呂入ってはよ寝たい」

どうにか逃れる術はないものか、ない頭をフル回転させて名案を絞り出したい。しかし白石は待ってはくれない。頭を抱えている高瀬の腕を引っ張って、有無を言わさずに浴室の前まで連れていく。

「何をそんなモジモジしとるねん。さっさと脱いでさっさと入るで」

高瀬の腕から手を放して言葉通り素早く上の服を脱いでいく白石を見て、「逃げるなら今だ」と「養ってくれてるから強く断れない」と、悪魔と天使の囁きが頭の中に響く。高瀬の葛藤を他所に白石はもう下着一つの姿になっていた。

「何や、脱がしてほしいんか?」

「んなわけあるか!」

「ほな先入っとくから、ちゃんとくるんやで」

下着に手をかけて脱ごうとしている白石から慌てて目を逸らす。高瀬のまるで生娘のような反応に小さく笑みを零して白石は浴室に入っていった。
シャワーが床や肌に当たる音を聞きながら、高瀬は立ち尽くしている。悩みに悩んだ末、やはり風呂は辞めておこうと思い至る。
しかし白石という男のタイミングの良さ(と言うべきか悪さと言うべきか)は異常である。
浴室のドアが急に開き、白石の手が伸びてくる。

「ひぇっ」

「遅い。逃げようとしとったやろ?」

腕を再び掴まれ、グッと強い力で浴室内に引きずり込まれる。白石の逞しい胸板が眼前に迫って、おたおたとみっともなく狼狽している間に、浴室の扉は閉められ、更には鍵までかけられた。

「なんで、鍵…」

「すぐ逃げられんように」

「服濡れてんだけど…」

「それがどないしたん?」

シャワーのお湯が直接当たっていなくとも、白石の身体から跳ね返る飛沫が高瀬の服を徐々に濡らしていく。
そんな瑣末なことを、とでも言いたげに首を傾げる白石の顔は、今までに見たこともない表情で、妖艶に笑っている。背筋がゾッとした。身の危険を感じるが、腕は掴まれていて、この手を振りほどく力も無ければ例え振りほどいたとして鍵を開ける手間を考慮すると逃げられる方法は無さそうだ。

「あ、のさ、逃げようとしたことはごめん。ちゃんと入るから、とりあえずここから出て服脱がせてくれない?」

「ここから出る必要はあらへんよ、そのまま洗ったる」

空いてるもう片方でシャワーを手に持って、高瀬の頭からシャワーを浴びさせた。
まだ濡れずに済んでいた背中や肩の部分まで衣服が水を吸い、色が濃く変わって重みも増していく。ズボンを通り越して下着までずぶ濡れで、肌に張り付く布の感触が気持ち悪い。底の見えない恐怖が迫ってくる。
とにかくシャワーから出てくるお湯を止めたかった。髪から流れ落ちてくる大量の水は、呼吸を難しくさせたからだ。そして、何とか白石を説得したかった。空いている手でカランを捻り、流水を止めることには成功した。

「白石、やめてくれ、頼むから」

弱々しい声で、自然と浮かんできた涙を目尻に溜めて、白石を見上げる。
白石はシャワーをシャワーフックに戻して小さく息を吐いた。

「…でもなぁ、人の恋心につけ込んで、養ってもらおうとした青が悪いと思わん?」

「な……、」

「青は昔から聡かったし人の気持ちには敏感やったやん。でも俺も鋭い方やからな、青が俺の気持ちに気付いてることに、俺も気付いとったよ」

「それ、って…」

「俺が青のことまだ好きなのも、コンビニで再会した時気付いたんちゃうん?せやからそこにつけ込もう思て飼ってくれとか言うたんちゃうんか?」

「ちが、」

「俺めっちゃ傷付いたわぁ。青を傍に置けるのは嬉しかったけど、青が俺の事そんなふうに利用するんやなぁって思ったら辛くてしゃーなかったわ。だから俺も青の言葉利用したろーと思ってな。俺優しかったやろ?下心ある奴とひとつ屋根の下でも警戒心なくなってたやろ?好きな奴が毎日隣に居って、触れたいと思わん奴居るか?居らんやろ?アホやなぁ、青は。まんまと騙されたなぁ」

まるで子供をあやすように。いや、自分よりも下の生き物を見下すように笑って、水に濡れた髪を撫でながら饒舌に話している。
ペットは最初が肝心やろ?だとか、触られるのも嫌がらんようになるまで慣らさんとな、とか、そのおかげで抱き締められるの嫌じゃなかったやろ?とか、聞きたくもない言葉を並べている。

「今までは甘やかしとったけど、そろそろ躾もしとかんとな」

いつの間にか高瀬の腕からは白石の手が放されていた。そして今度は頬へと滑っていく。ほぼ無意識に、反射的に、その手を払い除けた。

「うーん、やっぱり躾が必要やなぁ」

白石の言葉にハッとして、払い除けた手に目を向けると、爪が当たってしまったのか薄く皮がめくれていた。

「ご、ごめん」

「ええよ、って言いたいところやけど、ご主人様に手をあげる悪い子にはお仕置きせんと。まずはお風呂嫌がるワガママ猫ちゃんを綺麗にしたらんとな」

高瀬の手によってせき止められたシャワーのお湯を、カランを逆側に捻り再度流水させる。また頭からお湯を被ることになった高瀬は、逃げるように身を捩らせて、白石に背を向けた。

「こーら、逃げへんの」

後ろから羽交い締めにされて、白石の身体が高瀬の背中にぴたりと密着する。腰あたりに何か硬いものが当たっている。

「ほんっ、ほんまにやめ…!」

力では敵わないことは重々承知しているが、抵抗せずにはいられない。満足に動かせない手足を、精一杯じたばたさせて必死の抵抗を試みる。

「やっぱり青は関西弁が似合うな。かわええ」

高瀬の抵抗など意に介さず、むき出しの首筋に唇を落とした。それを受けて、更に暴れ出す高瀬。

「あぁもう、暴れたらあかんよ」

そう言って高瀬の抵抗を止めるために、布と擦れたせいか恐怖のせいかわからないが濡れた服に張り付いてピンと勃った乳首を人差し指と親指で少し強めに摘んだ。

「ひっ…」

「大人しくしなさい」

無言で首だけを何度も縦に振って、暴れていた手足もピタリと止まる。

「ええ子やな」

満足そうに呟いて、しかし高瀬の自由を許すつもりはなく、高瀬を動けないようにしながらボディソープに手を伸ばして器用に片手だけで掌にボディソープの泡を出している。

「青、自分で服捲って」

言われるがまま、濡れて肌に張り付いた服を胸の上まで捲る。露わになった高瀬の腹と胸を泡まみれの手で後ろから撫でるように擦っていく。時々わざと乳首の指の腹で撫でながら、そしてその度に声にならない声を上げる高瀬を見て白石の興奮度は増していく。

「大人しく出来て偉いなぁ、青。そのまま大人しくするんやで」

そのまま手を下半身に下ろしていき、ズボンと下着の中に手を侵入させる。高瀬は身体を強ばらせて、恐怖に身体を震わせている。

「しら、いし…いやや、こんな…」

「青は俺の家と俺の金で悠々自適に暮らして良い思いしてるんやから、俺にも良い思いさせてくれてもええやろ?」

高瀬が決して逆らえないように、負い目である部分をわざと口に出してやる。
反論出来なくなったところで下着の中に滑り込ませた手を更に下げて、恐怖に縮こまっている高瀬のソレを両の手のひらで包み込んだ。緩く揉んで軽く擦って、手についた泡が滑りを良くしてくれるおかげでスムーズに快感を与えることが出来る。
徐々に頭を擡げ始めた高瀬の肉棒に反して、高瀬自身の頭は下を向いて、目と口は固く閉じられている。手の上下するスピードを速めて、快感を強めてやると、固く結ばれていた口が僅かな隙間を開けて普段よりも高めの声が漏れた。

「ぁっ、ゃ、やめ、」

「あ、かん。かわええ」

高瀬の腰に触れていた白石のモノが興奮にピクリと脈打つ。扱くスピードは緩めず、高瀬の意識が散漫な内に身を屈めながら片手でスボンと下着を下ろしていく。
膝下まで下ろしたところで、足で衣服を押さえて高瀬の足首まで下ろし、高瀬に足を上げるように命じる。快楽と恐怖がせめぎ合って朦朧としている意識の中、言われた通り足を上げてズボンと下着を脱ぎ捨てた。

「上は…まぁええか」

高瀬を弄るのを一度止めて、シャワーで泡を全て洗い流してお湯を止める。終わったのかと安堵したのも束の間、浴室の鍵を解錠し扉を開け放つと、快楽に震える高瀬の膝裏と脇下に手を添えて高瀬の身体を抱え上げた。

「今日は青が俺に飼われて一ヶ月やろ?プレゼント用意してあるねん」

「ぷれ…ぜんと…?」

「気に入ってくれるとええんやけどなぁ」

楽しそうに笑って浴室から寝室まで、高瀬をお姫様抱っこした状態で連れ歩く。廊下は水浸しだ。床腐らないかな、なんてこの状況にそぐわないことを考えている間にふかふかのベッドに放り投げられる。
白石はベッドヘッドの引き出しを開けて中の物をまさぐっている。そして引っ張り出されたのは青い、リボンと鈴のついた首輪だった。リン、と濁りのない冴えた音が鳴る。

「やっぱペット飼うなら首輪は必要やと思ってな」

「いらない…」

「そんな悲しいこと言わんでや、青に似合うと思って買ったんやから」

動物用にしては大きく、人間のファッション用にしてはあまりにも動物用っぽいそれは、きっとオーダーメイドで作ったのだろう。

「うーん…その半端な服邪魔やな、やっぱそれ脱いで」

「…」

「脱げや」

無言で身動きせず、身体で拒否の意を示していたらキツい言葉で『命令』される。白石の『命令』に逆らうことが出来ない自分が居ることに驚きを隠せないが、これが人の大事な心を利用した罰なのかもしれない。
そうしてまた、言われた通りに水に濡れて重い服を脱いで、完全なる裸を晒した。

「よし、つけてみよ」

装着された首輪は、思いの外苦しくなく、素材も良いのか肌に触れる違和感はさほどない。

「めっちゃ似合とる…かわええ、青」

多少乱暴にベッドに押し倒されて噛み付くような、高瀬の全てを奪わんとするような深い口付けを交わされる。
顔の角度を変える度、酸素を取り込もうと身をよじる度、首輪についている鈴の音が小刻みに鳴り響く。その音に合わせるかの如く、白石の手が再び高瀬の陰茎に伸びて、緩く上下する。
時間を置いたせいで快楽は抜け切って萎れてしまっている高瀬とは正反対に、相も変わらず元気に腫れ上がっているモノを高瀬の足にグイグイ押し付けながら唇を貪り食う。
悔しさと怖さと自分の浅はかさに涙が止まらない。それでも与えられる快感に忠実な高瀬の肉棒は先ほどと同じように大きくなっていた。

「…あかん。やばい、俺、なんや」

漸く唇から離れた白石は、暫し高瀬の泣き顔を眺めたあと、口元を押さえて困惑気味だ。

「俺めっちゃ青の泣き顔好きやわ」

良心が傷んだのかと少しばかり期待したが、勿論そんなはずはなく。顔は赤く、脈打つ白石の肉棒が足を伝って興奮していることを知らせてくる。
そしてまた、首輪をしまっていたところと同じ引き出しを開けて、今度は何やらボトルを取り出してきた。見たことのあるそれの中身を天井を向いて勃っている高瀬の陰茎に垂れ流した。予想以上の冷たさに身体が勝手に震えてしまう。竿を伝って、睾丸を伝って、尻の奥まったところまで流れてきたときに、思わず飛び起きた。一際大きく鈴の音が鳴って、それに応えるように静かに笑う目の前の男。

「横になって、力抜いとって」

肩を押されて、ベッドに逆戻り。白石の指はローションを馴染ませるように蕾をくるくると撫でている。

「い、や…それだけは…ほんとに…」

返事はない。満面に笑みを湛えている。
至極ゆっくりと、指を押し込まれる。二秒数える間に一ミリしか動いていないのではないかと思うほどにゆっくりなのだが、違和感は確実に襲ってきている。嫌な圧迫感が胸や腹いっぱいに広がり、身体は固く強ばっていく。
高瀬の後孔は白石の指を頑なに拒んでおり、高瀬を傷付けることが本意ではない白石は身体の力を緩めさせるためにもう一度高瀬の陰茎を手にした。萎えかけていたソレに、ローションの滑りを借りて確かな快感を与える。

「ん、ぅ…ぁ」

身体の力が抜けたのを見計らって、躊躇い無く後孔に指を突っ込んだ。

「ひっ、ああ゛ぁっ!!」

痛みに喘ぐ高瀬の中心部を絶えず刺激し続け、後孔を慣らすために指でほぐすのも忘れない。

「あ、あ、…はっ、ぁ」

高瀬の口から漏れる声が痛みを伴わない甘いもののみに変わればもう白石がすることは一つしかない。
ベッドの上に転がしていたボトルを手にして今度は己の肉棒に中身を垂らし、十分に滑りをよくする。高瀬の後孔から指を抜き、代わりに熱く猛ったソレを宛てがう。高瀬が状況を理解しきる前に、ひと思いに高瀬を穿いた。

「〜〜っは、あ゛っ」

指とは比べ物にならない圧迫感と、狭い穴を押し拡げられている不快感に息が詰まる。首を反らせて、足は爪先までピンと伸びている。

「っ、あー…青の中あっついなぁ…」

三度萎えかけている高瀬のモノを、緩急などつけず己の欲望のままに扱き出す。

「ぃ、やっあ、抜いてや…っ!」

涙をとめどなく流して懇願する姿は、白石の情欲を煽る結果にしかならない。嫌がる高瀬が首を左右に振る度に鳴る鈴が、更に白石を煽る。これはもう白石のものなのだと、鈴の音が教えてくれる。恋い焦がれて仕方なかった高瀬は今、白石の下で涙を流しながら喘いでいる。

「かわええ、青、かわええ……っはぁ、」

律動も扱く手も止める理性などもう何処にもない。

「ん…〜っ、し、ら…いし……う、ぁっ」

何かにしがみついていないと身体が飛び跳ねてしまいそうな錯覚に陥っている高瀬は、無意識に腕を広げて白石の身体を抱きこもうとする。白石は高瀬に重なるように身体を折りたたみ、首筋に軽く歯を立てた。密着した身体が更に奥深くまで白石の欲望を咥え込み、目の前がチカチカした。

「青…っ、出そう…!」

「あっあっ、ん…んぅっ」

高瀬に白石の声は届いていない。白石の律動は速まり、高瀬の呼吸と鈴の音もそれに呼応する。

「出る…っう…!」

高瀬の最奥で欲望をぶち撒けた白石は、高瀬に全体重を預けてしまう前に残った力で横に転がった。
つい数秒前まで白石の滾った肉棒を咥えていた高瀬の後孔は拡がって白濁の液体を垂れ流している。当の本人は泣き疲れたからか眠ってしまっていた。
その寝顔を愛おしく見つめ、赤く色付いた頬に手を添える。

「飼ったからには責任持って一生大事にしたるからな」



挑発したが最後。高瀬に逃げ場はなくなった。






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