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■ 夢見て!白石くん

裏、自慰注意




拝借した高瀬の体操服に顔をうずめてゆっくりと深呼吸するように息を吸う。
鼻腔を通り抜けて体中に染みわたる、柔軟剤と体臭が混じった高瀬の甘い匂い。高瀬の使う柔軟剤を使っても決して同じ匂いにはならない事はもう確認済みだ。

ああ…ほんまになんて、ええ匂いなんやろ。この匂いを嗅いでいると頭がおかしくなって自分が自分じゃなくなるような、そんな錯覚さえも覚える。強く惹きつけられて仕方がないのは、俺が彼に対して強い愛執を抱いているからか。

体操服の胸あたりに刺繍された名札。少し癖のある高瀬の字を指の腹でなぞって目を細めた。ああ、かわええ字やなあ。高瀬が入学前、新たな環境に期待と不安を抱きながらも名札に名前を直接書き込んだのかと思うと、そのちっぽけな文字にさえ愛しさ溢れる。かわいい。可愛くて仕方あらへん。ほんまに、全部、全部食べてしまいたい。名札に唇をつけ、それを唾液で濡らす。背徳感と高揚感と、他にも得体のしれない感情でぐちゃぐちゃになりながらも、確かに己の中心部分には血液が集中し熱く反り起っていた。

下着の下で大きく膨らんだ陰茎は苦し気に脈打ち、堪らずズボンのチャックを外して前を寛げると既に先走りが溢れ出て下着を濡らしていた。ぬるりとした感触に無意識に熱い吐息が漏れる。


「は……、高瀬、」

愛しい名前を呼びながら下着を降ろして陰茎を取り出すと、完勃ちのそれは充血しパンパンに膨れ上がっていた。尿道からは涙を流すように先走りを溢れさせている。

熱く脈打つ陰茎に手を這わして滑らすように扱く。刺激による快感がゆっくり確実に押し寄せ、己の身体を支配していく。
先走りを指に絡め亀頭をなぞるように、そのまま潤滑油として竿まで濡らすと感度がぐんと上がり、あまりの気持ちよさに肩が震えた。

手はもう止まらない。左手で上下運動を繰り返しながらも、体操服に鼻をくっつけながら高瀬の匂いに埋もれる。溺れてしまいそうなほど甘い匂い、頭がクラクラして何も考えられない。
こうしているとまるで、高瀬と抱き合っているようだった。


「ふ、っ…ぅ」

声が漏れてしまいそうになるのを唇を噛んで抑えながらも、ゆっくりと快感の波に飲まれていく。
目を瞑り高瀬の匂いにただ抗いもせずに飲まれるまま溺れていくと、気がつけば目の前には裸の高瀬が現れる。勿論全部、俺の妄想に過ぎないことはわかっている。
全て承知の上で、俺はこれから高瀬と情事を行うのである。


「…あぁ…青、…青」

恥じらいこちらを直視できないでいる高瀬の陰茎と己のモノをくっつけて、一緒に握り扱く。
高瀬は蕩けたように虚ろな目でようやく俺へと目を向けると涎を垂らして可愛い声で小さく喘ぎ、堪らずその唇に噛み付くようキスをすれば、高瀬は縋り付くように俺の身体に腕を回して必死に濡れた舌を絡めていくのだ。

互いの亀頭が擦り合わさって、もはやどちらのかもわからない先走りがぐちゃぐちゃに糸を引いた。
あまりの快感で引き気味の高瀬の腰を無理やりに引き寄せ、半ば高瀬を押し倒し彼の上に乗るかのようにして陰茎を擦り付けるよう腰を振る。高瀬は羞恥と快感で顔を真っ赤にさせながら、求めるよう、俺の名前を呼んだ。
しらいし、すき。そう、舌足らずに、その瞳に俺を映して。


「っ、」

陰茎が震える。
ああ、もっと。もっと名前を呼んで欲しい。高瀬の視界に俺を映して、どんな形でもええから、俺を俺だと認識して、そして意識してほしい。
ただそれだけでいいから。それだけで、いいのに。


『俺でイくの?…気持ち悪』

唐突に、俺の下に組み敷かれた高瀬が、興奮の色を失くした表情で、蔑むようにそう、言った。

瞬間、下腹がゾクリとする。まるで本物の高瀬が、言うように。その瞳に情けない姿の俺を映して言う。

「っぅう、ぁ、高瀬…っ、高瀬…!」

止まらない興奮に悲鳴にも近い声が漏れ出る。快感の波に飲まれ限界を迎えるように、何かが迫り上がるような感覚に見舞われ、限界まで張りつめた陰茎を無意識に強く握った。
しかし来るオーガズムを止めることなんて出来ないまま、尿道を伝って放出される白濁液は何に受け止められることなく、幾度かに渡ってベッドの上に散らばる。それはまるで失禁のようだと、まるで麻痺したような思考の中で底の見えない罪悪感を覚えた。



「っ、ふ、…は、あ…はぁ、」

頭に靄がかかったようにぼんやりする。
そのまま倒れるようにベッドの上に横になり、白い天井をじっと見つめ、荒い呼吸を整えるよう深く息を吸い込んで吐き出した。

また、やってしまった。今回は汚さなかっただけまだマシか。整わない呼吸のまま、傍らにある高瀬の体操服に目を向ける。
高瀬は意外と鈍感なところがあるから、汚してしまってそのまま返しても驚くほど気が付かないのだけれど、それでもいつバレるのではないかと冷や冷やする思いはあまりしたくはない。



「……、」

それでも、何も知らずに俺の精液をつけて授業に出席をする高瀬のことを思うとどうしようもなく興奮してしまうのは、やはり俺がおかしいからなのだろうか。
ベッドの上に落ちた精液を掬って、体操服の襟に、刷り込むように擦り付ける。色が変わっていく様を、恍惚に眺め嘆息した。これを、高瀬が着る。高瀬、気が付くかなあ。マーキングと同等の行為やから、きっと他の男はその匂いに気が付くだろう。高瀬は俺のもんや、誰も近寄らせない。

なんて。

「…」

目を瞑る。自分でもよくわかっている。この行為が、思考が、普通のそれから遠くかけ離れているなんて事。俺の高瀬へのこの思いは一体なんなんだろう、恋か、愛か、それともただの情欲か。

俺はただのクラスメイトでは終わりたくない。
ただ、それだけははっきりとわかっていて。



高瀬を思い浮かべる。思い浮かぶのはいつだって不機嫌そうな姿や怒った表情の高瀬ばかり。それでも、俺を俺と認識してくれなかった以前までよりよっぽど今の方がいい。

嫌われたっていい。無関心より、全然ましや。
高瀬の体操服にもう一度鼻を擦りつける。それは事後も変わらず、どうしようもないほど甘い匂いで、やっぱり俺はおかしいんやろかと、犇めきあう罪悪感と背徳感の中で、高瀬への想いだけが消えることを知らずにただ燻っていた。





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