暗い、設定がお粗末



「そんな、まさか…」
「裏切られたって顔してんな。悪い、今まで黙ってて」

俺、スクイブなんだわ。呟くように発した言葉は彼に届いただろうか。

純血であるはずの俺の一族で、どこでマグルの血が入り混じったのか俺は生まれつき魔法が使えなかった。所謂スクイブという奴である。俺の人生での最大の不幸は魔法が使えなかった事だが、最大の幸せは両親が純血主義ではなかった事だった。…いや、もしかしたら違うかもしれない。最大の不幸は両親が俺を殺すことも、存在を隠すことも出来なかった事なのかもしれない。


元々正常に血が通ってるのかも怪しいくらい青白い顔のドラコだったが、現在俺の目の前に対峙するドラコは今にも倒れてしまいそうなほど顔を真っ青にさせ、その瞳は動揺からか忙しなく揺れ動き感じているであろう困惑を色濃く映し出していた。
そんな今にも死んでしまいそうな顔するなよ。今までのようにドラコの隣に駆け寄ってその頭を優しく撫でてやりたくなるのをぐっと堪える。もう俺にその権利はない。彼は純血主義で、純血の一族であるはずの俺が魔法も使えないスクイブだと知った今、俺に抱くものは以前までの敬愛の念は何処にもないだろう。代わりに彼の胸に宿るものはなんだろうか。騙されたという怒りか、悲しみか。否、そんな単純なものでは収まりきらないだろう。プライドの高い男だ、例えようのないほど屈辱を感じ、嫌悪感さえも抱いている。そうして混じり合った負の感情が行き着く先は、殺意か。それとも殺すほどの価値なんてない、石ころのような存在に成り下がっただけだろうか。どちらにせよ、今までのような関係に戻ることはもう、不可能であるだろう。

「騙すつもりはなかったんだ。俺の口から言わなくても、いずれお前の耳に入るだろうとは思っていたし」

離れていくのならそれもいいと思っていた。今までの周りの人間はみんなそうだったから。
まさか、こんな親密になるまで知られること無く、まるで兄弟かのような関係になってしまうとは想定もしていなかったけれど。今からドラコと離れるのは少し、辛いなぁ。

「ああ、もうどうせ最後だ。口汚く罵ってくれよ。なんなら殺してくれたっていい、一族を、家族を、周りの全てを地獄に突き落とした俺のことを、殺してくれよ。生きていたってもう、」
「はっ……誰が、貴様の望みなんて叶えてやるか」
「ドラコ、」
「お前なんて一生苦しめ。生まれてきたことを死ぬまで後悔して懺悔しろ。お前に価値なんてないんだ、これまでも、これからも、死ぬまで一生!」
「っ、」
「穢れた血め。二度と僕の目の前に現れるな」

震える手で杖を取り出し俺へ突き刺すドラコの口から吐き出される言葉はナイフのように俺を切り裂く。心と言葉がまるで釣り合っていないように、彼の瞳からぽろぽろと耐えきれなかった大粒の涙が止めどなく落ちていくのが心臓を更に抉った。

「ごめん」

すべて、すべて俺の我儘なんだ。本当に大切に思ってるなら何も知らせずに彼の前から姿を消すべきだった。俺を生かそうと決めた両親の前から姿を消して、俺の存在が表立つ前に死ぬべきだった。全て俺の我儘なんだ。ごめんなさい、どうか俺を…罪深い俺を、許さないでくれたら。

「ごめんな」