テレビ画面にはGAME OVERの文字が頻りに点滅を繰り返している。このステージをやるのは何度目だろう。“前回”の八月では何日も掛けてようやくクリアできた激ムズステージだったけれど、八月がまた初めからになってしまったせいでゲームもまた一からやり直しだ。
前回一度このステージはクリアしているため、今度はそう何日もかからないだろうけれど、どうせこのステージをクリアしてもしばらく先のストーリーまではもう知っている。前回の8月31日の、夜の12時を迎える前に全てクリアしておかなかった過去の自分に非常に腹立たしさを覚えた。もういいや、なんか面倒だし。全てのやる気が失せて、手に持ったままだったコントローラーをベッドの上に放り投げた。そのまま自身もベッドの上に沈み込む。
今日は白石に誘われていたけれど、いいや。断っちゃおう。枕の横に置きっぱなしの携帯に手を伸ばすけれど、思ったよりも距離が遠くて身体を起き上がらせないと届かない。
まあ…いいか、あとで連絡すれば。約束の時間まであと一時間も無かったけれど、どうにも動く気にならずにただベッドのシーツに顔を埋めた。俺がいまここで白石に対してどれだけ酷いことをしようとも、結局すべて初めからやりなおしで何もなかったことにされてしまうんだから、俺のやることに意味なんてない。
家から出たくない。何もしたくない。全部無かったことになるのに、何かをする意味なんて、あるだろうか。いっそのこと何もせず、誰とも関わり合いにならずに、ただじっと家に閉じこもっていた方がましだ。
「……」
視界に映り込む時計の針が静かに時を刻んでいく。それをぼんやり眺めながら、俺は、死ぬまでこんな感じでいるのだろうかと考える。
そもそも、俺は自分で死ぬことを選ばない限り、ずっとこの時の流れに閉じ込められたままなんじゃないのか。ていうか、例え死んだとしても、8月31日が来たら、また強制的に8月1日に戻ってしまう可能性だって、完全には否定しきれないんじゃないの。
今までの自分の考えの甘さを思い知る。何がループしてる、ラッキー、だよ。前回のお気楽な自分に対して心底嫌気が差す。もう何も考えたくない。考えたって、何をしたって全部無意味だ。全部全部消えてなくなっちまえ。
心を閉ざして、深い闇に飲まれるよう、俺の意識はゆっくりと沈んでいくのだった。
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