「リーマス聞いてよー!あのクソ男また二股かけてたんだよ?!ほんっとーに信じられない!さいってー!」
「はは、また?前回嫌ってほどハルにこってり絞られたくせに、その男も懲りないね」
「あれはもう病気よ、治らない不治の病。彼を救うには一回召されるしかないのかしら…」

怖い事言わないの、と微笑むリーマスに私はあーあ。と溜息を吐きベンチに腰掛けるリーマスの隣に腰を落とした。
私には付き合って半年の彼氏がいる。しかしその彼氏というのが少々難ありで、毎度問題が起こるたびに彼、リーマスに愚痴るのがいつもの流れとなっていた。

「無理しちゃダメだよ、ハル」

優しい声音でそう言うリーマスに私は返す言葉を失い、ただ黙って彼の横顔を見つめた。
蔦色のさらさらな髪の毛。優しい印象を与える整った顔とアンバランスな顔の傷。香る甘い匂い。成績優秀な上に教え上手。そして当然の如く女の子からモテモテな彼、リーマス・ルーピンは私の友達だ。

「リーマス…」

「おーいリーマス、行くぞ」
「シリウス。ごめん、先行っててもらえるかな」

遠くの方から投げ掛けられた声にハッとする。
リーマスの友人のシリウス・ブラック。彼もまた成績優秀、眉目秀麗。そして家柄最強と言った完璧マンで女子の間で噂の人でもあった。まあ私からすればリーマスの方が全然かっこいいし優しいしで全く眼中にないのだけれど。(まあそれはあちらも同じで、リーマスにくっ付く変な女くらいの認識だろう)
シリウスブラックはジッと私を睨むように一瞥すると、すぐに興味を無くしたように視線を逸らしさっさと廊下を歩いて行ってしまった。悪い事をしたとは思わない。なんたって私だってリーマスの友達なのだから、彼を独占する権利はあるのよ!

「そういえばリーマスはそんな男さっさと別れろって言わないよね、なんで?」
「うん、言って欲しいの?」
「いや…でも女の子の意見とは全く違うから。大抵はそんなクソ男別れてしまえって言われるよ」

ていうか私でも同じ境遇の友人がいれば早く別れた方がいいと言うだろうし、まず自分自身にそう思っている。
それでも別れられずにズルズルと引きずってしまっているのは私でもよくわからなくて、正直手に余らせているのが実情であった。
リーマスはそんな私を全て見透かしたように見つめて微笑むと、高く青く広がる空を見上げた。

「うんそうだね。僕もそんなクソ男早く別れた方がいいと思うよ」
「えっ、あっ、そう…?」

思いがけない返答につい戸惑う私。やっぱそうだよな、言わなかっただけだよな。と少しどんよりしながらリーマスに習って空を仰いだ。

「そんなクソ男に悩んだり落ち込んだりするのすごく勿体ないし時間の無駄だ。もともと好きだった男だ。情が湧くのもわかるけど、勇気を出して断ち切って欲しい」
「リーマス…」
「ハル、楽しい事はまだまだたくさんあるよ。友達と美味しいご飯を食べてちょっとした話で盛り上がったり、イタズラして先生に追いかけ回されたり。新しい好きな人を想ったりさ」

リーマスはその瞳を輝かせながら、遠い何かを想うように話す。その横顔に魅せられたように、私はリーマスから目が離せなかった。

「ハルは何がしたい?僕は君の愚痴に付き合うのも嫌いじゃないけど、君にはキラキラした姿の方が似合うと思うな」
「…」
「次は僕とたくさん美味しい物を食べて、イタズラして、何年のあの男の子がイケてるとか、だめだとか。そう言う話しようよ、きっと楽しいよ」

今よりも何千倍もね。そう言っていたずらっ子のように笑うリーマス。なぜだか感情が湧いたように、目に涙が浮かんで溢れそうになる。それを堪えるように口を結べば余程おかしな顔になっていたのだろうか、リーマスが困ったように笑った。

「泣かないの。まるで僕が泣かせたみたいじゃないか」
「うぅ〜〜リーマスの馬鹿…お人好し、アホンダラ…!」
「今まで辛かったね。あのクソ男にどんな痛い目合わそうか」
「クソ爆弾投げつける、それも10単位で大量に!」
「いいね、噛みつきフリスビーも送りつけようか」
「そうしよう!次の休みはホグズミード行かなきゃ、リーマス付き合ってくれる?」
「もちろんだよ。友達の復讐に手を貸さない筈ないだろ?」
「んーー好き!」

蔦色のさらさらな髪の毛。優しい印象を与える整った顔とアンバランスな顔の傷。香る甘い匂い。成績優秀な上に教え上手。そして当然の如く女の子からモテモテな彼は友達思いで意外と悪戯好き。
リーマス・ルーピンは私の友達だ。