*ネタ提供
中編RPSの続編
財前視点



好きでもない女を抱くなんて容易い事だ。ただ自分の内に溜まった性欲を吐き出すだけの肉に対して何の感情を持つというのか。好きなのは彼女一人だけ。むしろ俺の性欲に付き合いきれない彼女に逃げられてしまうという事態の方がよっぽど深刻ではないだろうか。ならどうでもいい女を適当にひっかけて性欲処理をする。ほら、絶対にそっちの方がええやん。はじめは確かそんな軽い気持ちやった。本当に、その程度だった。

「どこ、行ってたの…?」

その日も飲み会の帰りに適当な女とホテルへ行き、やることだけやってそのまま家に帰ると彼女が目を腫らして待っていた。彼女の顔を見た瞬間、しまったと思った。うまいこと隠し通せていると思っていた。バレない自信があった。絶対に彼女を悲しませないようにと細心の注意を払っていたつもりだったのに、どこからバレたのだろう。いや、まだわからへん。何が原因かもわからへんのに、取り乱す必要はない。平静を装いながら上着を脱ぎ、普通に飲み会だと答えると彼女はとても小さな声で、本当に?と呟いた。普段とはまるで別人のような、弱気な彼女の様子に喉が鳴る。充血し、潤んだ瞳と赤くなった鼻に目が奪われて離せない。泣いていたのだろう、震える声で俺の名前を呼ぶハルに、ついさきほど欲は全て出してきたばかりだというのに急激に体が熱くなっていく。かわええ。なんて、かわええんやろか。
俺の浮気を確信していて、それでも尚信じていたいという彼女のその姿にもう押さえは効かなかった。気が付けば体は勝手に動き、彼女を床へと押し倒していた。

「な、に、ひか…」
「俺、ほんまにあんたの事が好きみたいっすわ。なんなんやろな、これ」

戸惑う彼女の表情は今でも忘れられない。それでも尚、俺のことを受け入れる彼女に俺は、どうしようもない愛しさを感じて、その小さな唇に齧り付いたのだった。


そして現在。
彼女は俺の浮気に耐え切れず、現実逃避するかのように他の男の元へ逃げ込む。本人はバレていないと思っているみたいやけどあんまし俺のことをなめんといてほしい。せやけど、例え彼女が浮気をしていることを知っていても何も言わずに許すのは彼女は必ず俺の元へ戻ってくることを知っているから。
俺が性欲を吐き出すために女を使うのならば、彼女はそんな現実から逃げるために男を使う。そのくらい許してやらへんとフェアやないやろ。そう思っていた、せやから彼女が他の男の匂いをさせて帰って来た時はいつも以上に優しく抱くし自分の気持ちも素直に伝えるようにしている。すると彼女は不安と快感と罪悪感でぐちゃぐちゃになった顔で涙を流しながら好きだと言うのだ。最高に、それが愛おしい。これでいい。たとえお互いに互い以外の人間と繋がろうとも、本当に好き合っていて愛し合っているのは自分たちだけだ。それらは全部、ただの肉と逃げ場にすぎない。本気でそう思っていたしずっとこのままでいいとさえ、思っていた。のに。


「ほんま、最悪やな」

彼女の身体に散らばった無数の朱は自分が付けたものばかり。しかし鎖骨の下にあるそれに覚えはない。言うまでもなく、あの男や。俺が気がつかへんとでも思ったのか。全部全部、最悪でしかない。ただの逃げ場所なのに、本当に彼女が好きなのは俺だけだとわかっているのに、なぜこんなに焦燥感に駆られるのか。

彼女が逃げ込む先が白石さんの元だと知ったあの時の感情は、きっと一生忘れることはないだろう。ほんまに、最悪やった。嫉妬なんてしたこともなかった俺が、あの日狂ってしまうほどの強烈な感情を抱き、いつもなら丁寧に抱くはずの彼女の事も壊れてしまうのではないかというほど強く抱いた。本当に、本当に最低で最悪で、そして何よりも興奮している自分がいることに俺は酷く困惑した。まさか自分がそんな性癖をもっていただなんて信じられるはずがない。信じたくもなかった。せやけど、彼女が白石さんの下で喘いでいる姿を、彼女が白石さんの名前を呼ぶのを想像するだけで、俺は嫉妬と嫌悪感と、それをはるかに上回る興奮で頭がおかしくなりそうだった。いやもう、はじめっから俺は、俺たちはおかしかったんやと思う。

「ほんっまに、最悪や」

今日も彼女を抱く。
あの男に抱かれ、跡の残る彼女を強く抱く。
跡が消える日は来るのだろうか。跡が消えた後、俺は以前までのようにそれで満足することが出来るのだろうか。わからないけれど、もし跡の消えた彼女を愛することが出来なくなってしまっていたらと思うと怖くて仕方がない。彼女を失いたくない、はじめっからただそれだけだったはずなのに。
どうして、こうなってしまったんやろ。ほんまに、俺も彼女もあの男も、この関係すべてが最悪で、どうしようもなく愛おしい。それも狂ってしまうほどに。



おわり
地獄のようなこの関係に終わりがくる日はやってくるのだろうか