*ネタ提供
謙也視点

パタパタと…否、バタバタと大きな足音を立てながらこちらへ近づいてくる気配に無意識のうちに身を固める。テニス部の部室に用があるような奴なんて限られてくるし、まだ練習開始まで時間があるから、遅刻ギリギリで急いで走ってくる部員というわけでもないだろう。
この足音には聞き覚えがある。……なんだか、嫌な予感する。

隣で俺と同じように何かが近づいてくる音に気がついた白石が、ん?と素っ頓狂な声を発した、その次の瞬間だった。
部室の扉がなんの遠慮も容赦もなく、スパーンと盛大な音を立てて開かれる。そんな力加減で開けたやつ今まで誰一人とおらんけど、よう持ち堪えたな扉…!

「ちょっと白石!あんたまた部会で余計な発言したでしょ!女テニと男テニ合同合宿ってなに?!ふざけてんの?!」

「うお、ハル……」

彼女のその勢いに押されるようつい漏れてしまった声にハルは黙れと言わんばかりに強く睨みつけてきた。そのきつい目力に尻込みするよう口を噤む。ハルは黙り込む俺から視線を外すと更に100倍はきつく、恨みと怒りが込められた視線で白石を睨みつけるなり、何かが気に障ったのだろう。駄目押しと言わんばかりに大きく舌打ちをした。

やばい奴がきた。

突如俺たちの目の前に現れたのは、同じクラスであり女テニの部長を務めるハルだった。握りしめた拳はぷるぷると震え、走ってきたせいかそれとも怒りからか顔を真っ赤にしてまるで般若のような顔をしている。
ハルは俺のことなんてまるでいないかのように、ただ真っ直ぐに俺の隣で着替える白石をきつい眼差しで睨みつけていた。
こっわ……。その迫力とさっきまでよりも3度くらいは温度が下がり冷え切った室内の空気になにも言えなくなってしまう。そんな俺とは違って、白石は至っていつも通り…むしろいつもより楽観的な調子で、あれ?と首を傾げた。

「え?あかんかった?どうせやるなら人数多い方がええかな思ったんやけど」

「あか……はぁ?!その前に何の相談もなく決定するなんてどういう神経してんのよ!!!あんた報連相ってもん知らないの?!」

「あれ、言ってへんかったっけ?オサムちゃんと話して満足してもうたんやなぁ…すまんすまん、堪忍してくれや。まあそういう事やから、そっちは頼むで」

そういう事だから、そっちは頼むだぁ?そう白石の台詞を復唱し、白石のその他人任せな発言に静かにブチ切れるハル。
白石お前、そんな火に油を注ぐような発言ようできるな……。白石の無神経さに畏怖というか、もはや尊敬の念さえ覚えるが決して真似したいとは思わないのがまた白石クオリティである。

しかし、ハルが怒るのも尤もだろう。
なんの相談もなく勝手に決められたとなったら女子テニス部部長として黙ってはいられないだろうし、普段から白石のことを目の敵にしているようなハルにとって今回の事態は余計に頭にきて許せないんだろう。

怒りが収まらないといったようなハルに白石は困ったように笑みを浮かべて、なんなら俺が皆んなに説明するで?とフォローのようなものを入れる。すると眉間に深いシワを刻んだハルは口を噤み、一瞬の間を置いてから「結構!」そう言い切った。
そのままこちらの返事を待たずして扉を強く閉め、またもどすんどすんと大きな足音を立てながらハルは行ってしまう。遠ざかっていく足音を聞きながら、妙な静けさに見舞われた部室内でおかしそうに笑う白石を横目で見る。あんな怒りを直接ぶつけられた後にようそんな笑えるな。こわ。

「……ハル、めっちゃ怒っとるやん。大丈夫なん?」

「せやな、あれはあとでちゃんとフォローいれとかんと後に引くタイプの怒りやったな」

そういう白石はやはりどこか楽しげだ。二人を見ていると闘牛が思い浮かぶ。決してハルの前で言うことはないが。


「お前らほんま仲悪いよな、っちゅーか犬猿って感じ」

「そんな風に見えるん?いややなぁ、ほんまは超仲良しなんに…」

俺の台詞に心外だと言いたげに目を丸めて口を尖らせる白石。二人が仲良し?白石の発言に呆気にとられて、つい想像する。
二人が手を繋いで笑い合う場面。は?背景に花咲いてるやん。しかもひまわりやで、そのありえない光景につい悪寒がする。白石はともかく、問題はハルや。仲良し、だなんてそれこそブチギレそうな発言ではないか。サブイボの立った腕をさすりながら苦笑を漏らした。

「は…薄ら寒い冗談やめぇや、お前らが仲良くしてるとこなんか想像したら気分悪なってきたわ……」

「失礼やな、ハルがまたブチ切れるで」

「あいつなんなん、超怖いねんけど……ほんまに女なん…?」

「怖ないって。必死に怒っててめっちゃかわええやん」

「うお、お前本気か?」

「さあ、どないやろ。ほな、コート行くで」

のらりくらりとかわしつつペットボトルを持ちベンチから立ち上がる白石。えっ本気なん?まじであの、常にこちらを側を敵かのように睨みつけてくる女が可愛いとか思ってるんか。
白石とは三年の付き合いになるし、親友とも言える。しかしこの時ばかりは真意の見えない、見せようとしない白石の様子に俺は困惑した。白石、あいつは……

(もしほんまやったら……なんちゅー女の趣味しとるんや!!)

上機嫌で部屋を出て行く白石の後ろ姿に、顔がええと女の趣味も多少曲がるんやなぁ。と薄ぼんやりと考えるのだった。


おわり

(ーーっちゅう事があってな。)
(あの馬鹿謙也…影で散々馬鹿にして…)
(まあええやん、ハルがかわええ事を知っとるんは俺だけで十分やろ?ちがう?)
(……知らない)
(あー、もうそういうとこやねん、かわええなあ)

という感じで裏で付き合ってる闘牛コンビ
(ライバル同士が裏では付き合ってる)