*ネタ提供


「あれ、ハルさん」

「白石くん?」

自分の名前を呼ぶ声にふと隣に目を向けるとそこには同じ学年の白石くんがいた。わあ偶然やね、と笑う白石くんに私はそうだね、と笑顔で特別面白くもない相槌を返す。
彼の突然の登場に特別驚きもしないのは、ここ最近出かける度に彼と出くわす事が多いからだった。多いなんてものじゃない、ほぼ百発百中である。

「今日は新作買いに来たん?」

「そうだよ、よくわかったね?」

「俺も。同じ本買いにきてん」

ええよな、この作家。そう言って掲げたビニール袋から少し透ける表紙は確かに私が今レジに持っていこうと手にした小説と同じものだった。有名ではないが丁寧でキラキラと綺麗な描写をするこの作家は私のお気に入りでもあった。まさか白石くんが同じ作家を好きだなんて、と嬉しくなるがここでぺらぺら語り始められるほど私と白石くんは仲良くない。たくさん話をしたいのをぐっと堪えて、いいよね、とまたも面白みに欠ける返事を返すのであった。


「最近、ほんとよく会うね」

「せやなぁ。めちゃめちゃ会うとるよね」

ここまで出かける度に毎回遭遇してるともはや申し訳なくなってくるレベルだ。気味悪く、ストーカーと呼ばれてもおかしくない事案だろう。毎度毎度なんの疑いもなく嬉しそうに駆け寄る白石くんは人を疑うということを知らないのだろうか、無実である私にとってそれは大変助かる事なのだけれど。しかし周りはそう黙ってはいない。

端正で整った顔立ちとなんでも出来る彼は学園のアイドルだった。初めて彼と話をした時、私が学園のアイドルである彼を知っている事とは違って、クラスも違う地味で根暗な私のことをよく知っているなあとは思ったが、白石くんは人の顔と名前を覚えるのは得意だと言っていたのでよく感心した思い出がある。やはり出来る人はそういったところがきちんとしているんだな、なんて。そういえば一番はじめに白石くんとばったり出くわしたのもこの本屋だったっけ。

「もしかしたら、運命かもな」

「…白石くん、運命とか信じるの?」

白石くんの口から出た単語に驚きで目を丸める。
まさか、そういうのを信じるタイプの人には見えなかったから驚きだ。白石くんはそんな私の様子に声を出して笑うとそのまま頷いた。

「信じとるよ、その方が楽しいやろ?」

「楽しい……はは、確かにね、楽しいかも」

楽しい、なんて考えたこともなかった。
私は運命は信じないけれど、確かにそんなものがあれば楽しいのかもしれない。自分では見えない赤い糸。それが誰かと繋がっていて、手繰り寄せられる事があるというのならそれはとてもロマンチックだろう。運命とやらも、そう悪くはないのかもしれない。

「せやろ?せやから、俺たち運命の赤い糸で結ばれてると思んねん、付き合お」

私の手を取り小指をなぞる白石くん。
言っている意味が理解できずに一拍間をおいて考えてみるが、やはり白石くんの言う意味はよくわからなかった。

「……え?ご、ごめんちょっと話の展開が…」

「俺は運命、信じとるよ。ハルさんは?」

「わ、わたしは……あったら、楽しいと…思う」

しどろもどろになりながらも辛うじてそう答えると、白石くんは笑った。

「よかった。ほな、これからよろしゅうハルさん。大切にするから」

よかった。…一体なにが、よかったんだろう。押し切られるように、断る術を持たないままにそう言い切られて私は小さく頷く他なかった。

白石くんはとっても綺麗な笑顔で、運命の赤い糸とやらが繋がった小指同士を絡み合わせた。




確信犯白石
(運命?もちろん信じとるよ。赤い糸って、ただその人が現れるんを待つんやなくて自分の手で繋ぐものやろ?)