*ネタ提供


俺がまだ小学校に上がる前のこと、同じ幼稚園にくららちゃんという超絶美少女がいた。色白で色素の薄い、柔らかい髪とくりっとした瞳。俺とくららちゃんは家も近かったため、よく一緒に遊んだり家族ぐるみでお出かけをしたりなどとても仲良しだった。俺はくららちゃんが好きだった。

しかし不幸は突然やってきた。俺が小学校に上がる直前、親の都合で東京へと引っ越すことが決まったのだ。
このままではくららちゃんと離れ離れになってしまう。そう考えた俺は、とりあえず逃げることにした。つまり、家出を決意したのだ。両親が大阪を離れてからこっそり大阪で生きていけばいいと、本気で考えた。

そして、引っ越しの当日。事前に説明をしていたくららちゃんの手を引き、お気に入りの新幹線のリュックにお菓子とボールを詰め込み、親に見つからない場所に隠れ、二人で生きていくと誓ったのだ。
狭くて暗い、滑り台の下でくららちゃんは目に涙を浮かべて俺の手を離さない。絶対いやや、はなれへん。そう言ってぎゅっと強く手を握る。それに、俺も無言で握り返した。
そして15分もしないうちに聞こえてきた徐々に近づく足音。俺はもう、これ以上は逃げられないことを悟った。それにこれ以上はくららちゃんまで怒られてしまう。
俺はくららちゃんの手を握りなおして、テレビで得た知識を思い出す。そう、確かこうやって、手を握って、目を合わせて、ゆっくりと口と口を合わす。ポケットに入ってるのは綺麗な指輪ではないけれど、俺がくららちゃんに渡すために作ったビーズのブレスレットだ。
それを取り出してくららちゃんの腕に通した。そうして目をまっすぐ見つめる。


「絶対、絶対むかえいく。から、待っとって。くららちゃん」

「ハルくん、」

「大人になったら、結婚しよ。それまで、待っとって」

「・・・うん。待っとる、ハルくんが来るん、ずうっと待っとるな」




「こらハル!くらちゃん連れてどこほっつき歩いてんねん!お父さんもうお家出るって、はよ戻るで!」

「お、おかあさ・・・」

「くらちゃんも堪忍なあ。ほら、さっさと行くで。あんたが何かあったらすぐここに来るんバレバレやからよかったものの・・・んっとうに馬鹿息子やな」


母の呆れ交じりのため息を遠いことのように聞きながらくららちゃんの揺れる瞳を見つめる。俺は必ずまた、この町へ戻ってくる。そしてくららちゃんと結婚するんだ。幼いながらに俺は、そう深く決意したのだった。


そしてそれから13年の月日がたった。
高校3年生の秋、先日18歳を迎えたばかりの俺だったが幼いころ交わした約束を忘れることなくひそかに覚えていた。勿論そんな子供の約束、守られるなんて思ってなんかいない。ここは二次元でもなんでもなくリアルなのだから、あれほどの美少女が律儀に約束を信じて待っているなんてそんな期待・・・まあ全くしていないとは言えないけれど、でも信じて迎えに行けば当たり前に馬鹿を見ることになるのは予想に容易かった。

「・・・のに、なんで俺は・・・馬鹿なのか・・・」

目の前にある小さなぞうの滑り台は記憶のそれと本当に同じものなのか不安になるほど小さくて、錆びれて汚らしかった。記憶の中のぞうさんは確かに俺とくららちゃんを祝福してくれていたはずなのに、このきったねえ象はむしろなんで帰ってきたん?まさか子供の約束信じて帰ってきたんか、自分アホやな、とか言い出しそう。ってか聞こえた。ほんと俺ってバカ。くららちゃんのフルネームも知らないのに、知り合いのいない土地に単身で突撃って。ちなみに家はすでに違う家族が住んでいたので本当に詰みですね。

「・・・はあああ」

大きなため息を吐き出して、象の滑り台の下に座り込む。確かに、俺って何かあればここに逃げ込んでたな。そりゃ家出したとしても即ばれるに決まっている。自分の何一つ変わらない阿呆さ加減に呆れながら、これからどうしようか。13年ぶりの大阪の空をぼんやりと見上げた。




つづく
思ったより長くなりそうなのでとりあえず一旦。

(昔した結婚の約束を(相手が)ひきずる)