*ネタ提供


いつからだろう。
あの人が私の事を買うようになったのは。
そう遠い昔の話ではないけれど、俗に言う一般カップルの倦怠期が訪れると言われるような月日は優に超えていると思う。
毎日毎日飽きもせず私を買い、たかが身売りの少女のために綺麗なホテルを予約して、まるで壊れ物を扱うみたいに私のことを丁寧に抱く。時にはプレゼントを用意して、時には少し遠いホテルまで車を出すそれは、危うく勘違いをしてしまいそうになる。まるで普通の女の子になったのではないかという、危険な思い違い。


そんなあの人の第一印象に、他のお客さんと比べても特別変わったものを抱くことはなかった。ただなんとなく変な人だなとは思ったけれど、それでも他にも性欲を吐き出すこと以外にも癒しを求めるお客さんはいたし、お金を出して私を買っているくせに、まるで教師か親のようにこんなことはもうやめなさいとベッドの上で、しかも腰を振った後につまらない冗談を吐く人もいた。
そんな中であの人は特別なお客さんというわけでもなかった。
ただ、とても綺麗な顔をしていて、女の子の扱いにも、それこそベッドの上だって文句のつけようのない完璧な人なのに、わざわざ犯罪を犯すなんて。少女性愛、というやつなのかと、天は二物を与えないとはよく言ったものだと感心したことはよく覚えている。
それでも普段からこういう事をしていると、若い女、それも未成年にしか興味がわかないというような人と出会うことも少なくはなかった。世間的には、そういった趣味嗜好はタブーとされているけれど、実際胸の内にその仄暗い闇を抱える人はさして珍しいわけでもないのかもしれない。
憐れな人。もう二度と会うこともないかもしれない、綺麗な顔をしたあの人と初めての情事を終えて、彼がホテルの代金を支払ってるときに隣で感じたのはそんな思いだった。



連絡先を交換せず別れたあの人は、また私の目の前に現れた。
初めて会った時と同様に、駅前で行く当てもなくふらつく私に、お姉さん。お姉さんとの時間、また買ってもええ?と綺麗な顔であまりに似つかわしくない台詞を言って、声をかけてきたのはあの人だった。もう二度と会うこともないだろうと思っていた、きれいな顔の憐れな人。
再開したのは、彼に初めて買われてから2日も経っていなかった夜のことだった。


「変な人。待ち伏せまでして。そんなに私、よかった?」
「せやなあ」

あの人はそれだけ言って、あとは微笑むだけだった。
だから結局、あの人が本当に私のことを待ち伏せしていたのか、それとも初めて会った時と同様にたまたま見かけただけだったのか。それほどまでに私の体が良かったのかはわからないけれど、今はわからないままで良かったと、思う。



そしてそれから、あの人は毎日のように私を買った。
本当に飽きるほど何度も何度も身体を重ね、同じ時間を共にした。お金を出して私の事を買っているくせに、一切手を出さずに同じベッドで一緒に眠るだけの日さえあった。彼に向けられる笑顔が、あの暖かい手のひらが、全てがすっからかんだった私に沁み渡っていく。
そうしていつしか私は、あの人以外に向ける言葉も営業スマイルも、セックスの仕方さえ忘れてしまっていた。


今までも繰り返し、何度も同じ人に抱かれた事はあったけれど、こう何ヶ月も、それこそ他の人が入る隙間もないほど連続で買われることはなかった。

当初の目的のお金は困らないほど貰ってる。心に開いた穴も埋めてくれる。不満なんて何一つない。きれいな顔をしたあの人は、私が欲しいものをすべてくれるから。
だからこそ私はあの人が、こんな平凡で若いだけが取り柄の私を買い続けることが不思議でたまらなくて、同時に怖さを感じるようになった。


あの人と一緒にいる時間だけは、まるで私は普通の女の子に戻ったみたいな気持ちになれた。

いつ飽きられるか、いつ連絡が取れなくなってしまうか、いつ、またあの日々に戻ることになるのか。
もう、きっと私は元には戻れない。あの人を知らなかった頃の私には戻れないだろう。
あの人と同じ時間を共にしていると、今までの汚い行為すべてが夢の中の出来事のように思えた。けれどそれはすべて、馬鹿な私の、ただの現実逃避にすぎなかったのだ。






誰にも渡したくない白石