*ネタ提供


罰ゲームで告白、って本当に趣味が悪いと思う。
せやけど、それに乗っかった俺も相当酷い。


「ハルさん、一緒にかえろ」
「あっ、う、うん…あっ、でも私、図書室行かなくちゃいけなくって、…」
「あーええよ、付き合うわ」

同じクラスのハルさんは地味で眼鏡で暗い、いつも教室の端っこで本を読んでいるタイプの陰キャ。現在俺はこの人とお付き合いをしている。ちなみにもう2ヶ月経った。


先日俺とクラスメイトで行なったゲームで、負けた俺が科せられた罰ゲームは、この陰キャ代表みたいなハルさんに告白をすることだった。
ほんっとーに趣味が悪いと思う。考えた奴阿呆やろ。まっそれに乗っかる俺も相当…

「財前くん、無理しなくていいよ?ちょっと長くなっちゃうだろうし…」

そうは言われてもなぁ。
クラスメイトのニヤニヤとした視線が突き刺さる。
この罰ゲームにはルールがある。
その1、付き合う期間は3ヶ月。
その2、必ず週に一回は一緒に帰ること。
その3、バレたらおしまい。

この、その2が結構厄介なもんで、俺には部活があるため必然的に週に一回部活が休みの日は彼女と帰らなければならないのである。たとえどんな理由があろうとも、俺は彼女を待つ。し、彼女も俺を待ってくれる。

「無理してへん、気ぃ使うな」

…ハルさんは、予想以上にええ女だった。あと普通に可愛い。気もする。ほら、こうやって申し訳なさそうに笑ったりする顔なんて結構クる。


「あっごめん、先生に呼ばれてたの忘れてた……図書室で待ち合わせでいいかな…?」
「担任やろ、また雑用?ええように使われすぎちゃうか」
「こ、今回はちがうよ!進路のことでちょっと…」
「ふーん。まあわかったわ。ほなまた後でな」

手を軽く振ると、少し照れたように手を振り返して教室を出て行くハルさん。今のちょっとかわいかったな。
2ヶ月も一緒にいればそれなりに愛着は湧いてくるもんだと知った。この関係も、悪くはないと思ってたりする。


「ざーいーぜん!お前すっげーな!あの陰キャ相手によくやるよ!」
「やっかましい、耳元でうっさいねん」
「俺ぜってーむりだわ、一緒に帰ったとしても一言も話さないね。ってか速攻バラすわ」
「自分らが決めたルールやろ。無理な罰ゲーム用意すな」

ゲームのことを知るのはこの三人のみだったが、他のクラスメイトも多分なんとなく気がついている。あの陰キャに俺が告白したという噂は確か次の日には広まっていたし、その裏に何があるかなんて少し考えれば察しがつくだろう。
ただ、ハルさんは違った。あの人は普通に鈍臭いし天然も混じってるから、罰ゲームだなんてつゆにも思わないだろう。
あの日俺が告白して、あの人は理由も聞かずに頷いたのだから。

「もうすぐ3ヶ月だろ?お前らいつ別れんの?」
「んー。」
「お前のこと好きっていう女の子にめちゃくちゃ文句言われてんだぞ、羨ましいわ」
「何言ってんだよ、あの陰キャと付き合っても告白の数減ってねーだろ?つまりはそーゆー事だよ」
「えーまじ?二番でもいいからってこと?」
「ちげーよ、みんな罰ゲームってわかってんだよ。じゃなきゃあんな陰キャと誰が付き合いたいって思うんだよ」

勝手に盛り上がるクラスメイト達から視線を外してため息をつく。こいつらのお喋りはクソつまらん、これならまだハルさんと一緒にいた方が楽しい。

そうだ、帰り、ハルさんを連れてカラオケでも行こうか。あの人見た目に反して声が綺麗やから、聞いてて心地よい。
頬杖をつきながらぼんやりと黒板を眺める。乱雑に消されたチョークの跡。教卓の上に置かれた、ホームルームの後に集められたノート。担任が持って行き忘れたんだろうか、なら取りに来るはずだ。きっと……

「あっ………」

きっと、ハルを使って。

教室の出入り口で、立ち尽くすハルの姿に時が止まる。何より彼女の青ざめた表情と、取り繕うような仕草に、心臓が止まるかと思った。
ハルは走り出す。きっとあてもなく、初めて廊下を走る。

「っ、アホが…!」

「はっ?財前どこに、」
「っさいねん、罰ゲームはおしまいや」
「えっ、なに……」
「ルール3、バレたらおしまいなんやろ、自分らアホちゃうか」

阿呆面をするクラスメイトに吐き捨て、教室を出る。
廊下をかけていく少女の後ろ姿が遠い。逃さへん、絶対に逃がすもんか。
もう、罰ゲームはおしまいや。




「っ、」
「にっ、げんな!」

やっと追いついた。階段の踊り場、駆けていくハルの腕を掴んで捕まえる。細い手足とその陰キャらしい体力のなさでは追いつき捕まえる事はとても容易かった。

「捕まえた、から。もう逃げられへんで」
「なっ、なん、で、…」
「なんで、なに?」

威圧するように声を低く出す。
すると面白いくらいに肩を跳ねさせ縮こまるハルの姿に胸がざわついた。あかん、こんなところで欲情すんな。肩で息をし、必死に酸素を取り込むハルの顔は真っ赤で、体は震えている。目は潤み煽情的なその姿はもはや的確に欲を煽ってくる。俺はもう我慢ならず、その小さな唇に噛み付いた。

「っ、ん、、…!!」

最初こそ抵抗の嵐だったが、逃げようとする頭を支え腰を強く引き寄せれば2.3分もすればそれも収まる。
口内を引き摺り回し、犯していく。舌に軽く歯を立て、歯列をなぞり、唇を舐め上げた。閉じかけた唇を舌で割って入って、熱い舌と舌が絡み合う、水音が放課後の静かな階段に響いていく。どちらのともつかない唾液がハルの顎を伝って制服のブラウスに染みをつけた。メガネがここまで邪魔なものだと、俺は知らなかった。
真っ赤な顔をして、縋り付くように俺のシャツをつかむハル。陰キャのくせに、エロいやつ。


「っ、……」

ゆっくりと唇を離す。
名残惜しいと言わんばかりに唾液の糸が引き、それがぷつんと途切れた。

「…なん、で、こんな………わたし、」
「初めてのキス、やったんに?」
「っ………」
「罰ゲームで奪われるよりマシやろ。それとも、なんも知らずにファーストキスは図書室で、こっそりがよかったん?」
「ひどい、よ、…罰ゲームなら、ここまでする事ない、」

うつむき、ポロポロと涙を落としていく。メガネを伝って落ちていく涙は、とても綺麗だ。
ハルの頬に両手を添えてこちらを向けさせる。揺れる瞳が俺を捉えて、そしてすぐに逃げるように視線を外される。ハルのメガネを取り、頬を伝う涙を掬った。


「せやから、罰ゲームは終わったんやって。これは普通のキス」
「……よく、わからない。財前くんはなにを言ってるの…?」
「俺もよくわからん。やけど、逃さへん。お前は俺の彼女やろ」

怯えたような目で俺を見つめるハルにぞくりとした。思ってもみなかった。まさか、俺がここまでハマるなんて。ただの陰キャやと思ってたんに、まさか俺の心を掴んで離さないなんて。

「俺から逃げられると思うなよ」
「っ、」

息をのむ音と、後ずさり上履きが床をする音。
多分気がついていた。せやからこんな悪趣味な罰ゲームに乗ったんだと思う。
俺は彼女を捕まえたい。捕まえて、逃げられないようにがちがちに固めて、そして俺のものに。俺だけのものに。


「好きやで」

罰ゲームは、おしまいだ。



思ってたんと違う
(罰ゲームがバレる)