「ちょっと。あんたマネージャーやろ。しっかりせえよ」
「すっ、すみません…!次回はきちんと用意しておきますので、」
「っち。ほんま使えんな。タクシーいつ着くん」
「多分もう着いてるかと…下に待たせてあります」

申し訳なさそうに視線を落とすマネージャーの姿に鼻から息を吐き出した。

俺のマネージャーはほんまに使い物にならん。
いっつも謙也さんと能天気に騒いどるのはほんまに睡眠の邪魔になるし、謙也さんにいじめられた後リーダーにフォロー入れられるとすぐにヘラヘラする。
苛つきをぶつけるように俺がマネージャーに対して辛く当たればとても傷ついた顔をする。そしてまたリーダーに慰められて立ち直るのだ。あの女にはプライドというものがないのか、少し心配になる。

今日のスケジュールも全て終え、楽屋で解散となって何分経っただろう。謙也さんとリーダーは飲み行くとか言ってたが、俺は今夜一人でゆっくりしたい気分だとその誘いを断ったのだ。二人は歩きで、近くにある行きつけの飲み屋に向かっていった。そして俺はタクシー待ち。
そんなことよりタクシーもう着いてるんならさっさと言えやアホ。

「に、荷物持ちます!」
「ああ、はい」
「財前くんは、凄いですよね。作詞作曲までして、このグループを支えてます」

この女、次は媚を売り始めたか。
マネージャーの言う通り、グループの曲の大半は俺の作詞作曲で作っている。それを苦に思った事はないし、むしろ自分の作り上げたものがいろんな人に認められる事はとても喜ばしい事だった。それだけで、こんなアイドルなんてことを続けていける理由になりえたのだ。
一歩後ろをついて歩いてくるマネージャーに、ほんまこの女、めげへんな。と顔を渋くさせた。

「多分出待ちの方がいらっしゃると思いますがどうしますか?」
「あー、俺握手とかサインとか全部断ってんねん。なるだけぱーっと行くわ」
「わかりました、私が先に出ますね」

出口に着くとマネージャーは警備員に一言声をかけた。
そしてそのまま外へ出る。目の前に止まったタクシーを目視して、俺もマネージャーに続いて外へ出た。

「あっ、あれ光くん!!」
「キャー!光!握手して!」
「サイン下さい!光くん!!」

黄色い声が耳に痛い。
案の定出待ちの女どもはいて、目ざとい彼女達はすぐさま俺の姿を見つけ出すと周囲を囲み出した。

「…」
「すみません、通してください!すみません!」

身動きできないほど囲まれてげんなりする俺を守るように、マネージャーと警備員のおっさんが俺の周りをガードして道を作ってくれる。
ようやくできた隙間を縫うようにタクシーへ向かって歩く。その間も女どもの黄色い声や甘ったるい匂い、うざったいほどの手が向かってきて本当にアイドルを辞めたくなる。

「写真撮らないでください!下がって!」

そしてマネージャーと警備員のおっさんのお陰でやっとタクシーまでたどり着けた。ほっとして車に乗り込む。やっと逃げ切れた…。
まだ騒騒しい窓の外をぼんやりと眺めていると、取り残されたマネージャーが何やら女どもに詰め寄られていた。

「はぁ?!あんた何なのよ!光くんに近づくためにマネージャーなったんじゃないの?!」
「下心見え見えなんだよ!!」

車内にいても微かに聞こえてくる罵詈雑言に顔をしかめた。女って、本当に気持ち悪い生き物やな。まあ、女がアイドルグループのマネージャーになればこういったトラブルが起きることも予想に容易い。前回のマネージャーは希望してうちのグループのマネージャーになったが、ファンからの強い攻撃に耐え切れずに精神を病み、辞めていったのだ。
あのマネージャーも、きっとすぐに使い物にならんくなる。

泣くだろうか。これであの女はめげるだろうか。
車を発車させず、窓を少し開けてその場を眺めていたのは単なる好奇心だった。

「何とか言えよ、このブス!」
「申し訳ありませんが、これが私の仕事なので。いつもエクスタピアスをご応援いただきありがとうございます、それでは失礼致します」

目が点になるとは、こういう事だろう。
淀みなく言い礼をし、そのまま中へ戻っていったマネージャーの姿に言葉をなくし、そして笑いが漏れた。

「…っくく、ふ、はは…。」
「あの、行き先はいかが致しますか?」
「ああ、とりあえずじゃあ…そこの先曲がったところにある居酒屋で降ろしてもらえれば」
「わかりました」

決めた。あのマネージャー泣かすことを当分の目標にしよう。
気分がいい。こんな日には先輩方の飲みに付き合ってもいいだろう。軽く飲んで、そしてあのマネージャーがどうやったら泣くのか考えよう。きっと当分の暇つぶしになるだろう。

あの時見えたマネージャーの強い眼差しに、口角が上がった。




冒頭で怒られてるのは善哉用意し忘れたから。
呼び方、部長→リーダーに変えました
おもしれー女。って危うく言わせかけた。そして多分すぐ泣くマネージャーに呆気にとられる財前。
マネシリーズのエクスタピアス編