前のマネージャーが辞めて、今年から新しく女の子がマネージャーになった。
困った顔が、とても可愛い人だった。

「ハルさんハルさん、あかん。お腹痛くなってきたんやけどどないしよ、」
「えっ、大丈夫ですか?!どうしましょう、どんな痛みですか?とりあえず薬もらってきますから楽にしていてください!」
「でも、もうすぐインタビューの人きてしまうやろ。時間遅らせたら今日の予定が全部遅れてまうし、」

今日はこの後、メンバーごとにインタビューがあるのだ。
既に白石と財前は別室で待機している事だろう、俺とハルさんもこれから移動する予定だったが、もし今ここで俺が腹痛を起こしたら。ハルさんは一体どんな顔をするんだろうか。どんな困った顔で、どんな風に対処してくれるんだろう。まるで小学生みたいに自分勝手な事をしていると思う。人を困らせて楽しいかと聞かれれば別に楽しくはない。しかし、困ったハルさんを一番近くで見れるんだったら俺は、どんな嘘もいたずらも、してしまう気がしたし、実際にその欲求は抑えられなかった。


「せやから、とりあえず頑張って…」
「だっ、だめです!予定はキャンセルして謙也くんのものだけまた後日にしてもらいます。無理して大変な事になったらどうするつもりですか!」
「は、はぁ」
「とにかく横になっていてください。謙也くんの分は今日はキャンセルさせて頂くことを今から先方に伝えてきますので、あなたは絶対に無理しない事。いいですね?」

いつになく強気なハルさんの迫力に押されるよう、立ち上がりかけた椅子にもう一度座る。
ハルさんに困った様子は見えず、携帯を開いたり手帳を確認したりただ慌ただしく動き回っていた。
腹痛なんて嘘だと、ネタバラシする暇もなく結局ハルさんは半ば飛び出すように部屋を出て行ってしまった。

「…ハルさん?」

あの人って、あんな人だったか。
いつもからかうと困ったような顔をして怒ったり、ムクれたりして、少し頼り甲斐がなくて、でも仕事は真面目にこなしていて。
いつもいつも、真摯に俺たちに向き合ってくれて。


『謙也くん、の笑顔はとても素敵ですね』

唐突に、微笑むハルさんの顔が脳裏に浮かぶ。
これは確か、彼女が俺たちのマネージャーになってすぐのこと。ライブで小さな失敗をしてしまって落ち込んでいた時に掛けられた一言だった。
顔に熱が集まっていく。動悸がして、胸が痛い。いったいこれは、

「あ、かん。…え?」

ただ困った顔がみたいだけ、なんてそんなの嘘だ。
一番は彼女の微笑みを俺に向けてほしい。でも、もしそれが無理なら、俺に翻弄されればいい。翻弄されて困った顔をすればいいんだ。

「は…」

「謙也くん、お薬もらってきました!とりあえずこれを飲んで横に……」
「ハルさん。俺、あなたの事好きかもしれん」

真っ赤に染まった顔、その見開かれた瞳に俺を映し出す。
俺は、彼女の困った顔が好きだ。俺に翻弄されればいい。その瞳に、ずっと俺だけを映していればいい。
俺だって、初めから彼女に翻弄されっぱなしなのだから。


マネージャーシリーズ
問題児グループ