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君の横顔を見つめた


卒業してから随分月日が経った。
俺たちはあの日から自分の道を歩き始めたはずだった。

「あれ、コウ?」

地元は同じはずなのに数年顔を合わすことのなかった友人。
突然の懐かしい顔に目を丸っと丸めてパクパクと口の開け閉めを繰り返す。
ずっと奥の方に閉まってあった古い記憶や思い出が浮かんでは消えていくのをどこかで感じながらああ、ユウキだ。なんてボウと考えた。

「お前、もしかして俺のこと忘れた?」

まじかよ。そう言って顔を引きつらせる友人に無理やり笑って見せる。
なんだよこれ、なんだよ。

「覚えてるっつーの、・・・ユウキ」
「なんだよ、びびらせんなよ」

昔よりもいくらか暗くなった頭の色も、高校の時よりも落ち着いた雰囲気も声も、すべてこの数年という時が変えさせたのだろう。
高校生から大学生、そして社会人。その間にはきっと大きな境目があったのだ。彼には一緒にバカをやっていたころのような無邪気さはどこかへ消し飛んでしまったように見える。
ユウキは、きちんと自分の足で、自分の道を歩き成長しているのだ。前へ進んでいる。
はて、俺はどうなのだろうか。成長しているか。前へ進んでいるか。
そんなことわかりきっている。―否、だ。


「久しぶりだな」
「おう。もう・・・5,6年になるんじゃねえの?」
「・・・意外と会わないもんなのな」

そうだな、そうカラカラと笑うユウキの横顔を眺める。
あのころよりも少しだけ大人びた笑みを浮かべるユウキはやっぱり大人に成長したよう。もしかしたらスーツ姿のせいかもしれないけれど、でも。

「なんか、お前変わったな」
「コウもな。落ち着いた・・・ていうか、なんか元気ない?」

ジイと射抜かれるような視線を受ける。
とっさに外した視線は宙を彷徨いどこへやろうか嫌な汗が背中を伝う。見ていたこと、ばれただろうか。
口元を手で拭いふい、と顔をそむける。落ちかけの夕日が赤く俺とユウキを照らし出す。それはまるであのころの二人に戻ったようで。
いつも通りの帰り道のようで。

「・・・結局、一歩も進めてないのかよ、」

この数年間で俺は歩けていると思っていた。現に昔のように考えて苦しむこともなかったし、楽しい毎日を送っていたはずだった。
はずだったのに、顔を見ただけで昔の思い出や感情が舞い戻ってくるなんて。
まだ、コイツのことが好き、だなんて。

「ありえねえ・・・」
「何さっきっからブツブツ言ってんだよ?」

久しぶりに会ったんだし、呑むぞ。
カラリと笑ってスタスタと前を歩いて行ってしまうユウキの背を見つめる。
お前はいつもいつだって俺を置いて歩いていくのな。俺が、お前の隣に立つことができる日はくるのか。

「・・・っあー!もう、いい。・・・待てよこの野郎っ!!」
「はいはい、走れー」

目の前を歩くユウキの首に腕を巻きつけてやる。
そうすればうざったそうに、だけど楽しそうに笑うユウキと視線があった。
そうだ、今はこれでいいんだよ。
この5年間の空白を埋めてやるから、待ってやがれ。眩しく光る夕日をキイっと睨みつけた。


END