重なる人格への愛は悲恋
「お前じゃねえ」
「は?」
「お前じゃねえんだよ」
引っ込め。
そう吐き捨てるように言われたセリフに目を丸める。
俺に言ったんだよな?目の前に仁王立ちするリヴァイ兵長にあの、と手を伸ばしたら叩き落とされた。うそやん。
「・・・どうゆう?」
「っち」
心底傷ついた。
口には出さないものの、そうやって顔を歪めてみたら兵長ったら舌打ってそっぽ向いてしまった。うそやん。
こんな兵長知らないし、てか俺じゃないって何がだよ。わけがわからない。説明からお願いします、と意味を込めてちょっと頭下げてみた。
「お前ん中にいる奴を出せっつってんだ。」
「・・・兵長?」
「顔つきからして全然ちげえんだよ。間抜け面しやがって」
あからさまな侮辱と暴言にヒクリと顔を引きつらせる。ていうか、わけがわかんない。
兵長はついにおかしくなってしまったのだろうか。巨人を削ぎすぎて、人類最強の重荷に耐えられなくなってしまったのだろうか。
俺たちは、人類最強を失くしてしまったのだろうか。兵長・・・。
「いいから早く引っ込め馬鹿」
「馬鹿って・・・」
「もう一人のお前を出せ。じゃねえと削ぐぞ」
なんてこった。
酷い言葉の数々に、胸が打たれる。
これが実の部下に言う言葉か。何年も一緒にやってきた部下に言うセリフか。
削ぐぞ。たった三つの五十音を並べただけの言葉に、俺は絶望し意識はブラックアウトした。
―――
"いいじゃないか、たとえ違う人格だったとしてもお前(俺)が愛されていることには変わりないんだ"
何をわけのわからないことを。
とても聞き覚えのある声で囁く音に顔を顰める。確かこの声は、そうだ俺だ。
俺が俺に囁きかけてくるって、俺もついに狂ったか。
"長年誰に知られることもなく恋心を抱いていた上司に抱かれる気持ちはどうだ?永遠と味あわせてやろうか?"
小馬鹿にするように囁く声が笑う。
それと同時に流れ込んでくる映像と感覚に目を見開く。後ろから誰かに突かれ、イイところを掠る掠る。自分でも触れたことのない、排出器官。
脳内に響き渡る喘ぎ声と肌と肌がぶつかる音と、直接感じる快感。今までに経験したことがない快感だった。
『ユウキ、っ』
後ろから抱きしめられて、耳元でささやく別の声に体を固める。
忘れるはずもない、ずっとずっと切望し求めていた兵長の声。死ぬまで、死んだって叶うことはないと、閉じ込めていた感情がぶくぶくと音を立てて溢れ出していく。
"ずっと見ててもいい。いつまでも見ていていいんだ"
誘う甘い誘惑に虚ろになりながら馬鹿言え、小さくつぶやいた。
「・・・ふ、ざけんな。勝手に俺の体使ってんじゃねえよ糞。こんな糞行為死ぬまで見るくらいなら、兵長の隣で巨人を削いだ方がましだ糞野郎!!」
―残念だ。
俺の前に現れた"俺"は本当に、本当に残念そうに笑うと暗闇の中へ消えていった。
気が付けば映像も、音も、快感もない。いつの間にかすべて消え失せ、そこにはただ暗闇が広がっていた。
「・・・ユウキ」
夢か、現実か。
暗闇の中、確かに感じた兵長の温もりに涙を流した。
END