生まれ変わったらさ
「リヴァイ、ねえリヴァイ」
「うるせえ。何度も呼ばなくたって聞こえてる」
なんという物言いだろうか。
不機嫌丸出しに、こちらをチラリとも見ようとしないリヴァイになにそれ。とプチ切れる。
それでもきつく、熱く握りしめられた手に口を噤む。目の前には無数の巨人が。今にも壁を打ち崩し、そして私たち人間を食らおうと手を伸ばしている。
それを視界に収めながら握られた手を、強く握り返した。
「生まれ変わったら巨人なんて一匹もいなくてさ」
風にかき消されてしまいそうになりながら声を張り上げる。
震えてしまっている声に気がついただろうか。気がつかれてもいい。そんなことよりも、伝わればいい。
言葉を探しても探してもどこにも見つからない。ああ、伝えたいことは山ほどあるって言うのに言葉が見つからない。わからない。
詰まる声に、リヴァイはゆっくりとこっちを振り返った。
「生まれ変わったら・・・」
「もし生まれ変わるんだったら、今度は幸せにしてやる。」
真剣な眼差しで風に煽られながら言うリヴァイに、顔に熱が集まって行く。
"リヴァイと幸せになりたい"
喉に引っかかって言えなかった言葉が消えていく。リヴァイはなんでもお見通しなのか。私が欲しい言葉、いつもここぞってときにばっかり言ってくれる。
なにそれ馬鹿みたい。そんなの、今が幸せじゃないみたいじゃん。泣きそうになるのを堪えて、飲み込んで、笑った。
「今でも十分幸せだからっ」
「ずっと隣に置く。今よりも幸せだろ?」
「っ、」
笑うリヴァイに、もうダメだ。と涙を流した。
ほら。こんな時に限って、ずるい。いつもは滅多に笑わないのに。いつもはこんな優しい言葉、欲しい言葉くれたりしないのに。
流れ落ちていく涙を見せたくなくて、酷い泣き顔を見られたくなくて肩を震わせながら真正面を見据える。
もう、行かなければいけないの。私たちは戦わなければいけない。もう、時間切れ。
「泣くな。生まれ変わる前の、大仕事だ」
「っ、うん」
「愛してる。ずっと」
肩を抱き寄せて、キスを落とす。
調査兵団の印である自由の翼を背負いながら、リヴァイはつながった手を離して、先陣を切って巨人へ向かっていった。
生まれ変わったら、きっと。
なんて、そんな楽しみは後にしておこう。今は目の前の巨人を倒して、そして。
「明日を、」
リヴァイと過ごすために。
熱の残った手のひらを一人きつく握って、涙を拭って、駆け出した。
END