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- ナノ -
をわり


今まで私が築いてきたものなんてなんてちっぽけで些細なことだったのだろう。そう思わざるをえないような、彼の笑顔に全てが凍りつく。
どくんどくん、とやけに煩く脈打つ心臓。暗く昏く闇へ落ちていくような感覚が視界をも侵食して蝕む。
彼の、彼女の笑顔がキリキリと心臓を締め付けた。


「は、・・・ぁ、」

くらのすけ。
彼の名前が、喉から声にならず息とともに吹き抜けていく。その女の子、だれ?
俯向く女の子の頭に優しい優しい右手を置く、頬を染めた蔵ノ介。恥じらう彼女は蔵ノ介を遠慮がちに見上げて、そして花のように笑う。そうして、蔵ノ介ははにかんで、ふと、脇役の私へと、視線を移して、

「あれ、ユウキ。どうしたん、こんな時間まで?」

「ん、・・・い、や、・・・今から帰るつもりで、」

毎週金曜は、2人でよく近所の定食屋行ったよね。
今日だって、幼馴染の私たちは2人並んで帰路へついて、でもその前に馴染みの定食屋でくだらない話しながら笑いあって、でもそんな些細な時間をお互いに、少なくもわたしは大切に思っていて、いつかは、いつかは、あなたと、定食屋だけじゃなくって、金曜日だけじゃなくって、いつだって、どこへだって、いけるって、

「あー、そうかそうか、すまんな!今日から彼女と帰るから待たなくてええで」

彼女、かわええやろ。
すれ違い様にこそりと、耳打ちする蔵ノ介に乾いた声が漏れた。

「ぁ・・・は、うっさいなー、さっさとかえれー」

はは、と笑って蔵ノ介の背中を持っていた鞄で軽く叩く。いつもみたいに、馬鹿みたいに。
笑う蔵ノ介は、また来週。そう手を振ると、彼女の手をつかんだ。
ああ、そうか、そうなのか。終わったのか、私の少女漫画のような日々はもう終わってしまったのか。
奪いようがない、まさしく王道のような、少女漫画の主人公のような2人を、ようやく主人公の前に現れたヒロインのような、そんな2人を前にしてしまって、私は、臆病な私は何をすることも出来ず終わりを迎えることしかできず。

小さくなっていく2人の後ろ姿を、最後まで見ていられなくて2人に背を向ける。ああ、さようなら、私の好きだった人、好きな人。
彼の物語のヒロインは私じゃなかった。違かった。私は脇役で、彼女がヒロイン。なら、私の王子様はどこにいるの?彼以外、誰がいるの?暗い闇が、絶望に覆われた。

をわり。