忘れない人
「忘れられた肖像、」
ようやく見つけた。
数年ぶりに開催されたゲルテナ展。ずっとこの日を待っていた。
あの頃の私はまだ若すぎた。どうすることもできないまま、ただ時間が経つのをじっと待っていた。けれど時間は何も解決してはくれなかった。
もう一度、開かれた。
もう一度、出会えた。
「・・・待ってて、ギャリー」
茨に囲まれて、眠る絵のギャリーにそっと触れた。
辺りは暗く染まり、人はいない。
これた。ようやく、やっと、ここへ。
忘れ物を探しに行くように、美術館を一人歩いていく。
薄暗い。見つからない、どこにいるの?
ふと、歩みをとめた。
「・・・ギャリー?」
真っ暗な道に現れた人物に、ポロリと言葉を落とす。
泣きそうに笑う彼。眠ってなんかいない、生きている。此処にいる、私の目の前に確かにいる。見つけた、私の忘れられない人。
「なんで、来たのよ」
「・・・会いたかったからに、決まってる」
忘れることなんてできなかった。
あれからたくさんの月日を過ごしてきたけれど、後悔ばかりが募っていって、壊れてしまいそうだったの。なんであの時私はなにもしなかったんだろうって。なんで何も行動に起こさなかったんだろうって。
だから私はこの日をずっと待っていた。
忘れることなんか、できなかった。
「馬鹿じゃないの、本当に・・・もう」
「馬鹿じゃないよ」
ようやく会えた。
彼の胸にしっかりと抱き着いて確かに感じた温もりに、この永遠に終わることのない空間さえも愛しく感じた。
END