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瑠璃色さまー



今年の夏は去年に比べてとても充実していたと思う。
俺がいて、佐伯がいて、あいつがいて。
3人でいろいろ楽しんだ。海にも行ったし、佐伯とあいつのアルバイト先である珊瑚礁の手伝いもした。たくさん日焼けをして、8月のおしまいに未だ終わっていない課題に焦り、9月には剥がれてきた皮に感動を覚えたものである。
去年の俺からは想像もつかないことばかりだ。

「だから、お前には感謝してるんだ」

涙で薄ぼけた視界はなかなか乾かない。
勉強ばかりの俺にあいつと佐伯はたくさんのことを教えてくれた。勉強よりも大切なことがあるってことを、教えてくれた。
夏休み明けテストは散々だった。
2学期の授業もしばらくは落ち着かなかったし忘れ物も増えた。それでもいいと、初めて思えたんだ。
だから俺は、それを大切にしたかったし失いたくなかった。
自分の気持ちを殺してでも。


「お願いだよ、佐伯」

頼むから、そんな顔をしないでくれ。

「そんな目で、見ないでくれ」

今にも泣きそうに顔を歪める。
どんよりと曇る空が重たくのしかかる。ああ、今にも降り出しそうな。

「殺してくれよ」

俺も。その気持ちも。お前も。
すべてすべて殺してしまえよ。そうすればきっと楽になれるんだ。つらいのは一瞬だけ、ただひとつ残されたあいつが心配だけど、でももうつらいのは嫌なんだ。

「ユウキ」

そう口のなかで呟くように言う佐伯にやはり視界はゆがむ。
掴まれた腕が、冷たく冷える。佐伯の手はこんなに冷たかっただろうか。ああ、もう夏はおわってしまったんだっけ。

「すきなんだ」

俺だって、伝えたかった。
あいつに、お前みたいにまっすぐ伝えたかった。それでも、あいつが見つめる先に俺はいなくて。いつだってあいつの視線の先には、おまえがいて。

「・・・おれは、殺したよ」


ああ、もう夏は終わったんだ。これから、冬がはじまる。


END