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Last world


静けさが耳に痛い。
外では雨が降り始めたのか、ポツポツと天幕に雨が落ち跳ね返る雨音が聞こえてき始めた。
―・・・一体どのくらいこの時間は続くのだろうか。
唾を飲み込む音さえ聞こえてしまいそうで、億劫な気を飲み込むように逸らすように装備品である愛用している剣の鞘を左手の指先で謙虚に弄った。


「・・・」

そっと、バレないようにエディへ視線を移す。しかしバッチリと合ってしまった視線に、しまった。と嫌な汗を浮かべた。
逸らすに逸らせなくなってしまった目がつらい。まっすぐ、何に怯えることもなく俺を突き刺す双眼が痛くて、すぐにでも逃げ出してしまいたい衝動に駆られた。

いつもならば、子供みたいに楽しそうに自分の話をするのに。
酷く黙って、真剣な目をして、気軽にどうした?の一言も言えないような空気を作って。一体彼は何をしたいのだろうか。小さいころから面倒を見てきたけれど、よく、わからなかった。


「苦しいんだ。もう、黙ってられない」

「・・・」

ポツリと溢すように言った言葉が、だんだん強くなってきた雨音にかき消されそう。
ああ、いっそのこと俺の存在もすべて消してしまってほしい。

「伝えなくちゃ、俺壊れちゃう」

「エディ」

こわれちゃう。酷く弱弱しくて、一瞬だけ苦しげに歪んだ表情が心臓に突き刺さる。
冷たい冷たい鋼の剣で、心臓を一突きされたような。
熱い熱い熱で熱せられた鋼の杭を打たれたような。
奇妙な感覚だった。ただ、苦しかった。


「たくさん、言いたいことあるんだ。もっともっと伝えたいことあるんだ」

「・・・」

「でも、でも、」

ギュ、と服の裾を引っ張られる。
そしてそのまま引き寄せられて、上から必死に小さな体で包むように、覆いかぶさるようにして抱きしめられた。
座ったままの俺と、膝立のエディ。体格的には俺の方がいいから、どしても不格好だった。


「今は、こうさせて」

カタカタと震える身体が必死に何かを求めている。すがりつくように、絞る声がまた一つ俺の心臓を傷つけた。
―卑怯だ。全くの他人のエディは弟で、弟子であって、友人であったはずなのに。
なんだって知っているって思ってたのに。

いつから、こんなにもつらい思いをさせてしまっていたんだろうか。
弱い、小さなエディの背中に回そうとした腕を静止させて考えた。
彼が今求めているのは兄として、師として、友としての俺じゃない。違う俺を求めているのだ。軽々しく、この腕は回せない。

「・・・、」

すきだ。
ポツリ落とされた言葉に、どうしても、抱きしめかえすことはできなかった。


END