余命一週間の君へ送る
窓の外から聞こえてくるミンミンゼミの鳴き声にぼんやりと意識を飛ばす。
季節は夏。世間は夏休みという大型連休で皆大いに休みを満喫しているであろう。
そう、俺だって本当だったら夏休みを謳歌しているはずだった。
好きな女の子とお祭りに行って、帰りに花火をしたり。
男だけで、海までちゃりんこを飛ばしてぱんいちで飛び込んだり。
暑い暑いと炎天下のもと汗をかきながら冷たい、少し溶けかけたアイスを食べたり。
夏休み残り一週間、終わらない宿題を前に半べそをかいたり。
「夏さいこう」
冷房のきいた、居心地の良すぎる室内もいいけれど、やはりつまらないものはつまらない。
少し香る医薬品のにおいにもすっかりなれた。
白く、いつでも清潔に保たれた病室に来る客は日が経つにつれてどんどん少なくなっていき、しまいには誰もこなくなった。
「よ」
約一名、この男を除いて。
「・・・高尾」
「なあに、そんな辛気臭い顔してんの?干からびてるけど」
からからと笑うこの男、高校の同級生である。
制服姿でスポーツバックを背負う高尾はつかれたーと投げやりにバックを床に投げ捨てると無遠慮にもベッドに腰を掛けた。いつものことなので気にしない。
が、体が沈んで気持ち悪いのでお前はこっち。と来客用のいすを引っ張り出してそこへ座らせる。あっはごめんごめん。悪びれずそう笑いながら謝る高尾はこれいただき、と机の上に置いた、食べかけだったりんごを口にした。
「今日まじで暑いよ、外」
「へえ」
「はー居心地よすぎー」
「なんかお前くさいよ」
「汗かいたからね」
そんな匂う?制服に鼻をくっつけながら訪ねてくる高尾に結構、と眉を寄せる。まあ嘘だが。
あっそ、と気のない返事をされたのでなんかもうどうでもいいや。
病室の窓へ視線を移す。あ、セミだ。
「なあ」
「ん」
「もし俺が余命一週間なんだって言ったらどうする?」
「そうしたら俺も一緒に死ぬよ」
なんてことないように笑っていう高尾。
歯の浮くようなセリフをさらりと言ってしまうあたりがなんというか憎たらしい奴である。まあ毎日会いに来るほど、俺のことが大好きみたいだから。
もし俺が死んだら本当にこの男も死んでしまいそうだよな。阿呆らしいけども
「あっそ」
「え?何てれた?」
「うるさい」
「ねえ、ユウキは?俺死んだら一緒に死んでくれる?」
「は?なんで?死ぬわけないじゃん」
「ひっ、ひどい!思った以上にひどい!」
「はいはいうるさいうるさい」
「もー、なんでもいいけどさ早く治してよ。海とか行きたいじゃん?」
「海はまずいだろ、海水しみる」
「あ、そっか手術したんだっけ。どう傷口は?」
「んーぼちぼち」
「本当夏休みに盲腸とかあほみたいだよね」
「俺は悪くない」
「はいはい。明日お祭りあるって、行こうよ」
「ええ」
「何その反応。明日退院でしょ?夏休み終わる前に思い出つくんなくちゃ」
「俺余命一週間だって言わなかったっけ?」
「わかったよ、明日迎えに行くから用意しといてね」
「気分はセミです」
「ばか」
余命一週間なら、残された人生楽しまなくちゃでしょ?せみさん。
嫌らしく笑う高尾に肩をすくめて見せる。彼の言うとおりだ、ごもっともである。
蝉は一週間を無駄なく生きているのであるのだから、俺だって。
「宿題やんなきゃな」
残された人生は、一週間よりも全然長い予定だけれど。
やっぱり悔いなく過ごさなければ蝉に怒られてしまいそうだ。お祭り行くか、と高尾に笑った。
END