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いつの間にか心臓を奪われていたみたいだ




「・・・好きなんス。俺と付き合って?」

中学3年。
夏のある日の出来事だった。
その日はいやに蒸し暑くって、いやに静かな一日だった。

「黄瀬くん?」

驚いたように目を見開く少女に心が躍る。
同じクラスで、同じ委員会で、隣の席の女の子。
今年初めて同じクラスになった相羽さんはいつも俺の話を楽しそうに聞いてくれていた。
仕事の話。部活のメンバーの話。バスケの話。授業の話。
すべての話題に。本当に、楽しそうに話を聞いてくれていたんだ。
いつしか、彼女の笑顔がいつもいつでも見たくて。
気が付けば、彼女に笑顔を向けられるたびに高く鳴る心臓に俺は心地よさと、息苦しさを感じていた。

「俺じゃダメっすか?」

体育倉庫の屋根の下。
燦々と浴びせられる太陽の光から逃げるように、影に隠れて目の前の小さな少女に笑いかける。

今まで、自分から告白することなんて一度もなかった。
人を好きになったこともなかったし、モデル業を始めてからは女の子なんてみんな同じに見えてしまって。
いくら迫られても、いくら告白されても誰かと付き合おうとかそうゆう気持ちは全然湧かない。女の子は嫌いじゃないけど、好きでもないんだ。

それでも相羽さんは違くって。
今まで何でもほしいものを手に入れてきた俺は、気が付かなかったんだ。


「・・・ごめんなさい、」

どこかで、自分が欲せば何でも手に入ってしまうって過信していた。

「私、黄瀬君とは付き合えない」

だから今回だって。
相羽さんの笑顔が好きだったから、ほかの男になんか向けさせたくなかったから自分のものにしてしまおうって、付き合って、俺しか、俺以外何も見えなくさせてしまおうって、だって、そんな、

「・・・ごめん、ね」

泣きそうになりながら言う相羽さんに、顔から笑顔が消えていくのを確かに感じた。
今、彼女はなんと言った?
頭が真っ白になる。あれ?だって、俺、こんなはずじゃ、だって、だってこの後じゃあいっしょに帰ろうかって二人で笑い合ってさ、手をつないで、俺が彼女を家まで送って、ちょっと早いけれどバイバイって手を振る彼女捕まえてキスして、もう一回好きって言って、抱きしめて、それで、それで・・・それ、で。

「そう、っすか、・・・そうっすよね、!お、おれのほうこそ、いきなりすみませんでした、は、はは・・・」

「黄瀬く、」

「いや、あのいいですから、気にしないで?わらってくだ、」

笑ってください。
無理やり笑みを浮かべて、言葉を続けようとしてハっとなる。
目の前に泣きそうな顔をした少女。
あれ、?相羽さんって、こんな顔するんだ。初めて見た。・・・でも、俺が見たかったのは、こんな顔じゃなくってさ。
笑顔の、俺の話を楽しそうに聞いて、笑っている、相羽さんが、・・・すき、だったんだ。


「笑って、ください」

「きせくん、」

「お願いします、俺は大丈夫っすから」

「ごめんね、ごめんね・・・きせくん、ごめんなさい」

そんなに謝らないで下さいよ。
はは、と乾いた笑みを浮かべながらうつむく相羽さんの頭をポンポンと撫でる。
かわいいなあ。相羽さんってこんなに小さかったんだ。抱きしめたらすっぽりはまっちゃいますねこれじゃあ、小さく震える相羽さんを抱きしめようと腕を回して、やめた。

「相羽さ、」

「・・・ありがとう、黄瀬くん」

目に涙を浮かべながら、俺の大好きな表情をして笑う相羽さんに俺も負けじと笑い返してやった。


***


「あーあ、だっさ」

一人残った体育館裏でその場にしゃがみ込んだ。
告白して、振られて気が付いた。好きだったんだ。本当に、俺は彼女のことが。
痛いなぁ、胸。ぎゅう、と制服をつかんで目を閉じる。今までタラタラ人生送ってきたバツが下ったんスかね。
本当にほしいものを手に入れることができないなんて、神様酷いなあ。

時間の経過とともに移動した太陽が、俺の惨めな姿を照らし出していた。


END