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見えるだけのミスター




いつものようにお昼からマツバさんのジムに何をするでもなく入り浸っていた。
今日はどうやら挑戦者は来ないらしく朝からずっと書類整理に追われているとか。
無言で卓上の積み上げられた書類を確認してはハンコを押すの作業を繰り返すマツバさんの隣でぼんやりと眺める。
たまにこっちを向いて暇なの?とか笑いながら話しかけてくれるマツバさんに私は仏頂面でいえ。と一言返すだけ。なんて可愛くない。
暇じゃないといえば嘘になる。というか暇だ。
しかし、仕事中のマツバさんの邪魔をする気にもなれないのだ。ていうかガン見されてる方がやりにくいのだろう、1時間に一回はお茶飲む?とか休憩しよっかな、とかなにかしら話しかけてくれるマツバさんにどうしようもなく申し訳なくなる。いえ、わたしが全て悪いと言うわけではないんです。


「・・・マツバさん」

「ん?どうかした?」

書類から視線を外してにこりと笑うマツバさんに喉がつまる。
ここ最近ずっとマツバさんの隣で暇を持て余している。仕事を手伝うと言っても、大丈夫の一点張りだし邪魔になるからと言ってもいて欲しいんだ、なんて。そんなこと言われたら帰れるわけないじゃない。

「あの、私やっぱり、」

「うん、ごめんね、僕のわがままで・・・退屈させちゃってるよね」

「いえ、そうじゃなくって!私がここにいても迷惑かけるだけじゃないかって・・・」

本当に申し訳なさそうに目じりを下げて謝るマツバさんに心臓の端っこがズキリと痛む。
いったい私はどうしたらいいの。二人してうつむき、お互いを考える沈黙に包まれて空気がぴりぴりと痛い。

「わかった。僕も大人げなかったよね、我慢するよ」

「マ、マツバさん、本当にそうゆうつもりじゃなくって・・・!」

「わかってるよ、ちょっとわがまま言ってみたかっただけだから」

クスクス笑いながら私の頭をやさしく撫でてくれるマツバさんに胸が締め付けられる。
マツバさんは考えていることがよくわからない。ほかの人とどこかずれている部分もあるからかもしれないけれど、どれが本当の気持ちでどれが嘘なのかわからなくて、とても不安になるのだ。
今日は家でゆっくりしな。やさしい声で、やさしい手で私を撫でるマツバさん。どうしたらいいのかわからなくって、彼の細い腰に抱き着いた。

「あの、あの、本当に私が必要ならっ、気を利かせてここに私をおいているんじゃないならっ、れ、連絡ください・・・!飛んできますっ」

鼻をマツバさんの腰にくっつけたまま、赤くなった顔を見られないように顔を上げないで言う。少しの沈黙の間に不安になるも、すぐに上からの抱擁に下唇を噛むことになるのだった。





『あ、ユウキちゃん?ごめん、やっぱり僕の隣にいてくれないかな、』

「マツバさん?どうしたんですか?」


集中できなくて。君のこと、考えちゃうんだ


電話口の向こう側から聞こえる、照れたような彼の声に顔を真っ赤に染める。
マツバさんの自宅を後にしてから2時間も経っていない。進まない時計から視線を外す。この場にマツバさんがいなくて本当に良かった。

そうして、私はどうしようもなく溢れそうな心を鎮める手段もわからないまま、彼に言うのだ。


「いまから行きます」


やっぱり、少し甘すぎるのかもしれない。
まあそれでもいっか、なんて緩んだ口元で呟いても説得力のカケラもないよね。
仕方ない。私はもうマツバさんナシじゃ生きていけないのだから。


END