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平行線の先は


足がもつれた。

「っぁ・・・」

コンクリートの地面に両手をつき、勢いのまま滑らしたせいで両手のひらはジンジンと熱を持ち痛む。膝も痛い。擦り剥けて血がにじんでいるようだ、こんなに盛大に転ぶのなんて小学生ぶりくらいだ。

「いた、」

「大丈夫?痛かったやろ、手ぇ出してみ」

「ひっ」

後ろから、包み込むように地面にへたり込む私を抱きしめる男に全身に鳥肌が立つ。嗅ぎ慣れない香水の匂いが頭をくらくらさせ、人の体温に悪寒がした。

「もっ、やめ、やだ・・・やめて、やめてよっ、」

「何言うてんねん、ええからはよ手出して」

「やだっ、やだ」

「うっさいねん、黙って手え出せや」

がちがちと歯が音を立てる。手首を強くつかまれて痛い。何の抵抗ができないまま両手は財前に奪われた。

「あーあ、ユウキはホンマとろいなあ、ボロボロやん」

「ぅ、っ」

れろ、と右手に気色の悪い感触と痛みが走る。目を見開いて見上げれば財前が舌を這わせていて、その顔は恍惚に染まっていた。
恐怖で体は固まる。誰か、助けて。人通りの少ないこの道では、いくら周りを見渡しても通行人の影は見つからなかった。

「砂っぽ」

「ゃ、やだ、やめ、」

「でも、やっぱユウキうまいわ。どんなカラダしてんの?」

血までうまいとか、おかしなやつ。口端を上げて愉快そうに言う財前に、おかしいのはあなただよ。と言葉が震えた。

「何言ってんねん、好きな女を追い詰めたいって思うのは普通やろ?」

なあ、ユウキ。ねっとりと熱を帯びた声音に背筋が凍る。
普通なんかじゃない、おかしい。それに気が付かない時点で、もう財前は前までの財前ではないのだ。財前をこうしてしまったのも、紛れもない私なのだ。

「好きやで」

もう逃がさへん。逃げるのなら、追い詰めて、追い詰めて、突き落としてやる。
愛おしそうに愛おしそうに、髪を優しくなでながら、財前は涙が伝う私のほほにキスを落とした。


END