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不確かなソルジャ



「え?なんですって?」

例年通りの猛暑が続く8月の半ば、夕刻。ガンガンに冷やされた室内にすっとんきょんな俺の声が響く。
3か月前に拾ってきた、いまだになつかない薄汚い模様の猫が怪訝そうに寝っころがった体勢から顔だけ上げて俺に視線を移す。その視線を振り払うようにしっしと手を仰ぐ。いまだに名のない猫は一度あくびを漏らすとまた寝に入った。


「・・・あの、イッキさん?」

『ねえ、どうかな』

ねえ、どうかな。じゃないですよ。電話口の向こうでクスクスと笑う、同じ大学の先輩であるイッキさん。これって遊ばれてるのかな、困った。眉を寄せていや、あの、なんて気の利かない、むしろかわいそうな俺は一体どうしたらいいのか。

「いきなりどうしたんですか、」

『女の子よりも、君と付き合った方が楽しいと思っただけだよ』

「いや、そうゆう話じゃなく・・・え、てか酔っ払ってます?」

『うん、ちょっと飲みすぎちゃったかな、ふらふらする』

ふわふわといつものイッキさんらしからぬ声音にもしや、と眉を顰めれば案の定。
確かに夏休みだ。しかし、夏休みだからと言ってまだこんな時間に酔うほど飲むだなんて、一体彼は何を考えているのか。
電話口の向こうから女の子の、イッキさんを呼ぶ声が聞こえてきて、口を閉ざした。もしや、これはイッキさんのピンチなのではないだろうか。ふらふらに酔ったイッキさんに無理やり女の子が迫って、自由も何もなくイッキさんはされるがままにあんなことやこんなことを・・・そして追々妊娠だのなんだの問題が発覚してイッキさんの人生はめちゃくちゃに、

「イッキさん!!!今どこですか!?迎えに行くんでそこで待ってて下さい!!!!」

『あ、ほんとう?冥土の羊の近くの居酒屋ね』

「ずいぶん近場で・・・あ、いえ。すぐに行くので待っててください」

スエットを脱いで適当な服に着替える。電話の向こうのイッキさんはやはり浮ついた様子で返事を返すと無遠慮に電話を切ってしまった。
ツーツーと無機質な音に小さくため息を吐き出して、うちに居座る名のない猫に視線をうつした。
勝手にどうぞ、といわんばかりに俺を見つめる猫にお前は、と声を漏らす。
イッキさんも、この猫も、一体何を考えているのか。仕方ない、早く迎えに行こう。携帯と財布をポケットに押し込んで、家に猫を一匹残して、出て行った。


END