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抜け殻


「しぐれ、まだ起きてる?」

肌寒い夜だった。
トイレに立った帰り、書斎から漏れる光になんとなく足はそちらへ向いていて普段は開けることのない扉に手をかけていた。
思っていた通り紫呉はまだ床についておらず慣れない眼鏡を引っ掛けパソコンと向き合っていた。
おや、と驚いたようにパソコンからこちらへ視線を移して眉を上げる紫呉に仕事の邪魔だったかな、と口をつぐむ。
紫呉は一度腕時計に目を通すとメガネを外し、おいでおいでと手招きをした。

「そんな特に用はないんだけど・・・悪い、仕事の邪魔した」

「そんな事ないよ、ユウキがこんな時間に起きてるって珍しいね。寝れない?」

紫呉の座る椅子のすぐ後ろにある、ふかふかのクッションの上に腰を下ろす。紫呉は少し笑うと飲みかけのコーヒーにそっと口をつけた。
先ほど確認した時には、すでに時間は夜中の2時を回っていた。高校生共は学校が朝からあるようなので既に寝ているはずである。
なんとなく窓の外の月を見上げて、満月に掛かる流れ雲にぼんやり心を移した。

「紫呉と話したくなっただけだよ」

「ふふ、可愛い事言って。」

ユウキ、こっちおいで。紫呉は俺の名を呼ぶと、優しく腕を掴み軽く自分の元へ寄せた。
目の前に紫呉の笑う顔がある。なんとなく、その整った顔に右手を寄せてぼうっと見つめた。

「・・・今更、女に生まれたかったとか、男でよかったとか言うつもりもないけどさ」

うん、うん、と柔らかく微笑みながら頷く紫呉に胸のざわめきがうるさく立ち込む。
お留守だった左手も、紫呉の頬に添えて、両手で彼を包み込む。
いくらでも考えた。もし女に生まれてきてたら、もし紫呉が女だったら、もし俺も、紫呉も草摩じゃなかったら。
そんな事考えたって仕方ないのは、23年間生きてきて、もう嫌という程わかったんだ。

「でも、今こうやって抱きしめ合う事ができるのが、幸せで、幸せで、とても寂しい。」

紫呉の首元に顔を埋めて、腕を背中へ回す。
紫呉の匂いに目を細めて体温を感じる。感じれる。
それがどういう事か。どんな意味を成してるのか、少し考えただけでこれ以上ないくらい幸せで、これ以上ないくらい悲しいんだ。
紫呉の体温を、鼓動を感じながら目を閉じていく。
紫呉は俺の言葉にしばらく何も言わずにただただ抱きしめるだけで、ふと満月を見上げると悲しそうな顔で笑った。

「好きだよ。とっても」

小さな、か細い声は切なく心臓に針を立てたような痛みを与えるだけで、何も癒してはくれなかった。

end