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トモダチの物語


『あの、"トモダチの本"って童話どこにあるかわかりますか?』

何か月か前、突然現れた少女は消えてしまいそうな声でそう訪ねてきた。
警備中に、図書館を利用している一般人に尋ねられることはそう少ないことではない。笑顔で対応にかかって、頭の中でどこだったけ、と捜し歩く。
さすがにこの武蔵野第一図書館でマイナーどころの聞いたこともないような単語の羅列された題名とかだったりすれば話は別だが、彼女のいう"トモダチの本"は聞いたことのある題だった。

「ちょっと待っててね」

制服を着ているところから未だ高校生くらいだろうか。それでも彼女の顔立ちが幼く見えるせいかまるで子供に言い聞かせるみたいに敬語が外れてしまう。
まずったかな、と若干の焦りを覚えるも大して気にも留めていないようにお願いします、と頭を下げる少女の姿に礼儀正しい子だなあ、と少し笑った。



ジャンル分けされた棚。
童話はどこだったけな、あそこの棚かな。いくつもの棚を通り過ぎて記憶をたどっていく。少し歩いてようやく見つけたコーナーは確かに自分で見つけるには少々難しい場所にあった。
それから棚を少し探せばすぐに見つかった題名にホ、と胸をなでおろして一冊手に取った。

"トモダチの本"
アーティスティックな筆記体で印刷された題名に目が奪われる。誘われるがままに表紙を開いた先は、真っ白だった。

「・・・ハハ、」

表紙の先が白紙だなんて別に珍しくもないことだ。
それでもなんだか不意を打たれたようで乾いた笑みが漏れてしまう。さあ、あの女の子のもとへ戻ろう。きっと彼女は待っている。




***

「小牧さん」

「ひさしぶりだね、ユウキちゃん」

あれからもう半年は経っただろうか。
2階から笑顔で手をひらひら振るユウキちゃんに俺も手を振りかえす。
毎週決まって木曜日にやってくるユウキちゃんと仲良くなるのに時間はそうかからなかった。1週間ぶりに見た彼女の笑顔に心臓がほっこり暖かくなる。

「お久しぶりです!あのね、昨日読み終わったんです。コレ」

「ん?」

彼女が胸に抱えた分厚い本は見覚えのあるもので。
"トモダチの本"
表紙に印刷された少女と、少年が手を取っている。感動したなあ、そう言って目を閉じ感傷に浸るようにつぶやくユウキちゃんをただ見つめる。
この二人はトモダチなのだろうか。いったいどんな物語で、どんな結末だったのかな。
動かないユウキちゃんにフ、と笑みをこぼして俺よりも低いところにある頭を優しく撫でた。

「俺も、読んでみようかな?」

「ホントですか?うれしいです」

本当にうれしそうに笑うから、俺もうれしくなる。
笑顔でもちろん、と言って見せると奥のほうで同僚である堂上がにらみを利かせてきたのに気が付いた。
ユウキちゃんも堂上の視線に気が付いたのかおかしそうに笑ってそれじゃあ、返してきますね!そう言ってペコリ頭を下げた。
行ってしまった少女の背中を微笑みながら見送る。
不思議なものだ。初めて会ったときはあんなにも小さくてまるで子供のようだったのに。

「仕事中に楽しそうだな」

「・・・ハハ」

「別に悪いとは言ってないさ。好きにしろ」

珍しく上機嫌なのか笑って背中を少し強めにたたかれる。
いてえ、歩いて行ってしまった堂上に笑った。

1ページ目は白紙だったとしても、次のページをめくる指先が物語を作っていく。
あの子とあの本を共有したいなんて、まるで恋みたいだ。小さな小さなトモダチの物語を、今俺も作り始めた。


END